『児童書』『猫本』

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作品名作者名出版社
となりのウチナーンチュ早見裕司理論社
花になった子どもたちジャネット・テーラー・ライル福音館書店
ブルーバックティム・ウィントンさ・え・ら書房
ぼくのつくった魔法のくすりロアルド・ダール評論社
Gold Rush ゴールド・ラッシュ!シド・フライシュマンポプラ社
純にいちゃんの赤ちゃんうみのしほ国土社
しいちゃん日記群ようこマガジンハウス
メビウスの猫本山夏希文芸社
リンゴ畑のマーティン・ピピンファージョン岩波少年文庫
星を見つけた三匹の猫ヨルク・リッター白水社
猫語の教科書ポール・ギャリコ筑摩書房
愛のサーカスポール・ギャリコ筑摩書房
猫だましい河合隼雄新潮文庫
猫物語ジェイムズ・ヘリオット集英社文庫
ゲド戦記(1)影との戦いル=グウィン岩波書店
ゲド戦記(2)こわれた腕輪ル=グウィン岩波書店
ゲド戦記(3)さいはての島へル=グウィン岩波書店
ゲド戦記(4)帰還ゲド戦記最後の書ル=グウィン岩波書店
ねこと友だちいとうひろし徳間書房
年をとったワニの話レオポルド・ジョヴォー福音館文庫
精霊の守り人上橋奈穂子偕成社
闇の守り人上橋奈穂子偕成社
夢の守り人上橋奈穂子偕成社
世界がもし100人の村だったら池田香代子
 C・D・スミス訳
マガジンハウス
童話物語上・下向山貴彦幻冬舎文庫
ぼくがぼくであること山中恒角川文庫
時をこえてスクランブル竹内もと代国土社
海辺の王国ロバート・W徳間書店の児童書
お引越しひこ・田中福武書店

【となりのウチナーンチュ】

早見裕司

15歳の彩華は、直木賞作家を目指す父・勇と古いアパートで暮らしている。ある朝、彩華は置物の 蛙の声が聞こえて驚く。心配して神経科に通うことにしたが、青蛙神と名乗る蛙と次第に仲よくなって いった。そんな折、隣室に夏海とその父が東京から引っ越してきた。夏海もまた神経科にかかっていると いう。夏海への束縛と執着が尋常ではなかった母の念が、生霊となって追いかけてくるというのだ。 沖縄の食べ物や言葉を教えたりして、家族ぐるみの付き合いが始まった。

沖縄の日照時間が少なかったりなど、意外な点も含め、情に厚い土地柄と人々の姿が描かれています。 あふれる熱い思いが、児童書という制限、あるいは土地への配慮のために、押さえ込まれた印象が あります。もっと自由に書ける設定にしたら、おもしろかったのではないでしょうか。観光ではなく、 そこに住むということは、台風だけではなく大変だなと思いながらも、一度は沖縄に行ってみたいと 思いました。


【花になった子どもたち】

ジャネット・テーラー・ライル

母が亡くなり、出張の多い父は、独断でオリヴィアとネリー姉妹を年とった伯母、ミンティーに、 夏休み中預けることを決めてしまった。 ミンティーおばさんの家は田舎で、草深い庭があるが手入れを せずにほったらかしに近い。ぎくしゃくと始まった三人の生活だったが、ある時この庭にまつわる話を 書いた本が見つかる。子どもたちが妖精におまじないをかけられ、花にされてしまったという。 本を なぞって、庭を掘ると青いティーカップが出てくる。魔法をとけるかもしれないと三人は行動を起こす。

きかん気で感情の起伏の激しい5歳のネリーと、大人が決してありのままのことを自分たちに告げては くれないことを 知っているオリヴィアと、古い麦わら帽子をかむったままの伯母のミンティー。 それぞれが、関わりを通して受け入れる心に広がりを持っていくのです。そして夢も忘れません。


【ブルーバック】

ティム・ウィントン

オーストラリアの大自然の中、二人で暮らすエイベルと母は、毎日海にもぐり、自然の恵みを感じながら 満ち足りた生活を送っている。ある日エイベルは海底で巨大な青い魚に出会い、その魚に魅了され、 ブルーバックと名づけた。やがて、成長したエイベルは、もっとブルーバックのこと、海のことを 知りたいと勉強し、ついに海洋学者になる。一方、母が一人で守ってきた故郷の入り江には、さまざまな 困難がやってくる。

生命、自然、本当の豊かさを、美しく描かれています。それだけではなく、地球規模の変化も感じ取り、 生きる目標や、自然がどうあってほしいのか、深く考えさせられます。海と土にがっしりと根を張った 母親と、紆余曲折の末、故郷に戻ってくるエイベルのたくましさが救いです。人間を責めることも無く、 ありのままを受け入れて生きながらえてきた大きな魚・ブルー・バックが、物語を引き締めてくれます。


【純にいちゃんの赤ちゃん】

うみのしほ

優子の家は、商店街の中にある飲食店だった。父のだし巻き卵は、自慢の一品だ。昨年母が亡くなり、5年生の優子が店を手伝っている。純にいちゃんは、バイトに出かけてしまう。 一人で家事をしていると、母の声が耳元でささやいてくる。小さな鈴の音と一緒に。運動会やお祭りの想い出が、優子にはかけがえのないものだった。 ある晩、純にいちゃんの部屋からカノジョとの話が聞こえてきた。

言葉がなければ、伝わらない。言葉がなくても、伝わるはずだという思い。仲良しの友だちに、ついつっかかる優子の気持ちが、痛いほどわかります。素直に父親に向き合えない、純にいちゃんの気持ちも、父親の気持ちも伝わります。心残りな母親の思いは、優子を通してしか伝えられない。でも、それぞれが言葉にして、必死に相手の胸に届けようとします。薄っぺらな言葉があふれている時代に、血の通った言葉があります。

読みながら、涙が止まりませんでした。背筋の寒くなる事件が多い時代に、こういう本と出会うと救われます。がんばってる作家がいるのです。


【ぼくのつくった魔法のくすり】

ロアルド・ダール

パパとママの留守中に、魔女のようでいじわるなグランマに脅されてしまったジョージは、 仕返しに魔法の薬をつくることにした。バスルームにあるシャンプーを手始めに、寝室の 化粧品、洗濯室のせっけん、台所の香辛料などあらゆるものを煮込んだ。いつもの薬の代わりに ひとさじ飲んだグランマは、見る間に背が伸びて屋根を突き破ってしまった。さあ、大変。

ペン書きの絵と、キャラのイメージがぴったりなことに、まず引きつけられました。物語は、 人間って、決して善意のみで成立しているわけじゃないことを、感じさせてくれます。魔法の薬で 考えるパパとママの思考回路も、シニカルです。それでいて、痛快な後味が残ります。大人も 楽しめる本ですね。


【Gold Rush ゴールド・ラッシュ!】

シド・フライシュマン

1948年。カリフォルニアで見つかった砂金に夢を託した、ゴールドラッシュ。東海岸から 南米大陸を船で回るしか、方法のなかった時代だ。資産が底をついたアラベラおばさまと 妹たちのため、12歳のジャックと執事のプレイズワージィはボストンを発った。出発間際に 旅費を盗まれ、二人はボイラー焚きをしながら航海を続けた。船長は、同じ航路の先を行く もう一隻の船との競争に賭けていた。途中で石炭と水が無くなったり、着いてからも様々な 困難が待ち受けていたが、絶妙なコンビの二人の知恵で、魔法をかけたように乗り越え、 ついに金鉱にたどり着く。

シルクハットと傘を手放さない執事と少年が、たくましく成長していく冒険物語です。悪人も 含めて、人間味あふれ存在感があります。好感度が高かったのは、変化に富んだシチュエーションと、 明るさと人間へのいたわりかも知れません。夢が、心を和ませてくれます。


【しいちゃん日記】

群ようこ

女王様気質の5歳の猫しいちゃんと、猫友だちでシャム、18歳のビーちゃんの2猫との 日々のできごとを描いています。短いセンテンスで、べたべたし過ぎない文章が心地いいです。 猫に振り回される幸せな時間。うらやましい空気が漂っています。

ビーちゃんがいよいよ老衰していく様子が、人間と同じく大変なのですね。歯槽膿漏や失禁、 心臓疾患・・・。人ごととは思えないです。7年前に亡くなったうちの猫を思い出しながら、 ふっと涙ぐんでしまいました。


【メビウスの猫】

本山夏希

スリの現行犯を取り逃がしそうになった刑事・岩城は、公園のベンチに座っていた 女性に助けられる。深夜、公園を通りかかると女性はまだ座っていた。猫を連れて いるので泊まるところがないと。失策をちくりと刺され、岩城は自分の部屋をひと晩 提供した。涼香と、猫のメビウス(メビー)との、出会いだった。

黙秘の犯人に手こずり、徹夜をして翌朝戻ると、二人?はまだ出て行っていなかった。 犯人の身元割り出しに涼香は情報を提供し、そのかわり新しいアパートが決まるまで 置いてほしいと言う。ドアノブを器用に開け、人間の便座で用を足し、眠りこける猫と 涼香との暮らしが、なし崩し的に始まる。

Cat Loverを自認する作者の描く、猫の描写が魅力的です。ちょっとドジな刑事の キャラもたって、捕まえようとするとするりと逃げる、猫的な涼香の存在感もあります。 人との距離感覚が、気持ちがいいです。特筆は文章のリズム感です。まるで作品自体が 猫のように、すり寄ってきてふっといなくなったような・・・。ネットサイトで連載 されたときより、文字の方がおもしろかった作品です。


【リンゴ畑のマーティン・ピピン】

ファージョン

旅人のマーティン・ピピンは、ロビンから、父親が娘のジリアンを閉じ込めている牢の鍵 は、六人の乳しぼり娘たちが持っているので、助けてほしいと言われた。

リンゴ畑を訪れたピピンは、リンゴをかじりながら聞く娘たちに、リュートを鳴らし歌を 歌い、六つの恋の物語を語る。満足したら鍵を渡すという約束をして。

登場人物を語り部にしてしまうのは、迷路のようなストーリーに限らず、展開が面白くな るようです。娘たちの性格や好みを理解し、さらにその手の上で踊らせようとするピピン のたくみさに乗せられ、悔しがる娘たちの表情までもがいきいきしています。

孤島にたったひとつ持っていきたい本にあげた方からの、お勧めで読みましたが、おもしろいですね、これは。


【星を見つけた三匹の猫】

ヨルク・リッター

片目のフレデリック、尻尾なしのカストロ、灰色猫のリンゴ。三匹は、フレデリックの 夢に出てくる『彼女』にあこがれていた。銀色の毛、アクアマリンの青い目、金の爪を 持っている。

一方、彼らを世界から抹消しようと企む、ネズミのマードックが考えた作戦とは・・・。
雪フクロウのメスランティアと、銀色猫のエンリルの、語り部分の美しい描写が見事です。 猫とネズミの人間味のあるキャラも含めて、動物を超えた世界の存在をしっかりと見せて くれます。
猫好きな大人の本でもあり、ファンタジィとして読んでもいいですね。


【猫語の教科書】

ポール・ギャリコ

猫好きな人には、たまらない本ですね。
編集者の玄関先に届けられた原稿は、猫がタイプしたものだった。 暗号のようなタイプを解読すると、なんとのら猫が人間のしつけを する方法を書いたものだった。
人間の家を乗っ取る方法、人間ってどういう生き物か、おいしいも のを食べる方法、など....。

猫と人間の微妙でおいしい距離感と、猫の魅力が充分堪能できます。 声を出さずに鳴く「にゃーお」の魅力に、まいりました。


【愛のサーカス】

ポール・ギャリコ

貧しいマーヴェル・サーカス団は、再生を賭けてスペイン興業に出る ことになった。道化師のウィリアムズは。身寄りのないローズと知り あい、一緒に連れていくことになる。
だがローズが身に着けた華やかな衣装に、興奮した馬が駆け出し、象 に踏みつけられそうになる...。

サーカス団の中で起きる、ちょっとした事件や、一人一人の様子が描 かれていきます。さらりとした文章の下に、ひそかに息づく感情の起 伏が、行間から浮き上がってきます。
人間を見つめる作者の目線の暖かさが、読み手にも伝わってきます。 息をつめて味わう、良質の作品です。いまでも読みつがれているのが 納得できますね。


【猫だましい】

河合隼雄

精神科医の作者の、猫好きにはたまらないお話でした。
そして、「人間の心と体を明確に分けた途端に、全体性を失われて しまうもの、それを『たましい』と考えてみると有効である」とい う姿勢で、治療に当る作者は、猫はその『たましい』に関連づけら れやすい生き物なのだという。
「長靴をはいた猫」では、王様の国と隣接する人食いの国の、境界 で猫が活躍し二つの国を統括してしまう。トリックスターの活躍が 成功した例である。
「ゲド戦記」のル・グウィン作「空飛び猫」では、『なぜなしに存 在し、なぜなしに納得させられる』ファンタジィに言及する。宮沢 賢治の「風邪の又三郎」「注文の多い料理店」「銀河鉄道の夜」 「セロ弾きのゴーシュ」に共通するものは、風と猫だと分析して見 せる。風が日常からかけ離れる幕開けであり、人間の判断を放棄し て解決を猫に譲っているのだと。
ほかにポール・ギャリコや、「100万回生きた猫」、大島弓子 「綿の国星」など興味深い材料を取り上げています。そして、どの 作品ももう一度読み直してみたくなるのです。とにかくおもしろい お話です。絶対のお勧めです。


【猫物語】

ジェイムズ・ヘリオット

スコットランドの小さな古いお菓子屋の店には、カウンターの上に アルフレッドがいる。ジェフの店が繁盛しているのを、満足気に眺 めているのだった。
獣医のヘリオットに猫の様子がおかしいと電話が入る。原因がわか らないまま、次第に痩せてくる。それとともに、ジェフの元気もな くなり商売もうまくいかない。なにが原因なのか...。
献身的なヘリオット先生と、飼い主たちの交流がなんともいい雰囲 気を出しています。10編の猫物語。暖かく、それなのにどこかみ んな、ちょっとブルーですね。そこがいいのです。あっけらんとし た猫物語はないでしょう、きっと。


【ゲド戦記(1)影との戦い】

ル=グウィン 清水真砂子 :訳

1歳で母を亡くしたダニーは、まじない師の伯母から能力を見抜 かれ、鳥や獣を自由に操る魔法を学んだ。成人式・13歳の誕生 日に、オジオンという魔術師にダニーは自分の本物の名「ゲド」 を告げられる。

ゲドはオジオンの故郷に行くが、やがてもっと向上したい欲求に かられ、一人で旅に出る。そのあとを脅かす影の正体とは...。

人間と魔術との不思議な関係を肯定するなら、この物語はとても 魅力に満ちたものになります。児童書とは思えない、複雑なゲド のこころの成長が丁寧に描かれ、単なる冒険物に終わっていない 作品です。


【ゲド戦記(2)こわれた腕輪】

ル=グウィン 清水真砂子 :訳

ゲドのいるところから遠く離れたアチュアンの墓所で、テナーは 名なき者たちの支配する暗黒と死の世界で生きていた。
黒い衣に身を包み、唯一絶対だと信じ、名なき者たちに仕えてい た。巫女・サーから知ったことを、テナーは一度で憶えた。洞窟 の歴史や、道順、古くから伝わる宝物・腕輪の半分のことも知っ た。

ある時、迷宮に、内海からやってきた肌の黒い魔法使いが入って きた。男と短い言葉を交わすうち、不思議にこころが惹かれた。 ゲドとの出会いは、テナーの運命を大きく変えいていった....。

第2巻です。壮大な世界観と、少女テナーのこころの精密さとが 魅力的に描かれています。


【ゲド戦記(3)さいはての島へ】

ル=グウィン 清水真砂子 :訳

大賢人ゲド(ハイタカ)のいるローク島へ、アレンという少年が 訪れる。モレド家の継承者でもあるという。
8人の大魔法使いたちと交流し、アレンはたちまちゲドに魅せら れてしまう。そして二人で南海域への旅が始まった。

世界にまん延している悪の源を探すために、船を操り、さまざま な人々と出会い、世界の広さを知ることになる。それはアレンの、 人間的な成長を促す作用をもたらした。そして「闇」にたどりつ く...。

第3巻は、ゲドのすさまじいまでの「闇」との戦いの物語です。 次はいよいよ、最終巻となります。この巻で終わってもいいくら いの劇的な戦いでした。


【ゲド戦記(4)帰還ゲド戦記最後の書】

ル=グウィン 清水真砂子 :訳

女農場主となったテナーは、炎の中に投げ込まれ大やけどを負っ た少女テルーを引き取り、一緒に暮らすようになっていた。
二人の前に、赤い翼を持つ竜が飛んできて背中に乗っていた男を おろした。「闇」との戦いで傷つき、魔法の力も無くした大賢人 ゲド(ハイタカ)だった。
テナーの看病でゲドは回復する。ゲドは、山羊の世話をする仕事 を始める。このままでいいのだろうか。そして、少女テルーに何 を教えたらいいのか、悩むテナー...。

ゲドとテナーの、世界の成り立ちを思考する会話が哲学的なほど 深い言葉で語られます。3巻から16年たって書かれたというこ の巻は、現実の暮らしと魔法や世界観が織り交ぜられ、少女テルー の本当の姿を劇的に示していきます。壮大な物語です。
こんな本があったのですね。出会えてよかった!ほんとうに。じっ くりと味わって読んでほしい作品でした。


【ねこと友だち】

いとうひろし

一人暮らしのおばさんにブータレと呼ばれていたねこは、金魚鉢 のおさかなと友だちだった。おさかなは生まれ故郷の南の海の話 をねこにしてくれる。
ねこは外の公園の話をしたり。ねこは、大好物のアジやイワシが 友だちとそっくりの形をしていることに、頭をかかえる。

ある時、金魚鉢から飛び跳ねて床に落ちたおさかなを助けようと して、ふいに体の中の本能が呼びさまされる...。

少し前に出た「嵐の夜に」の狼と羊の物語のようです。こころの 葛藤を通して、真の友情を見つける。なんとも哀しく、胸を打た れます。食するものと食されるものだからこそ、危うく存在する 命の大切さを感じさせてくれます。


【年をとったワニの話】

レオポルド・ジョヴォー(訳=山口裕弘)

4歳のルノーぼうやに語る4つの物語です。「パパ、お話をしよ う」と。
「ノコギリザメとトンカチザメの話」は、悪党の2ひきのサメが 船を転覆させたり、海を荒らし回っていました。その2ひきを狙 うくじらがいました・・・。

「年をとったワニの話」長く生きているワニが、体が衰えてえさ を捕れなくなってきました。ある日、ひまごのワニをぱくりと飲 みこみました。親族から相手にされなくなり、遠くの海に去って いきました。
であったのは、足が12本あるタコでした。恋人のタコはワニの ためにえさを捕ってくれました。でも、昼寝をしているタコを見 ると、おいしそうだなと思ってしまうのです。そして、ぱくり・・・。

生きていくうえで食べ物をどうするのか、ちょっぴり苦味のある ユーモアと、自由な話の展開が楽しめます。


【精霊の守り人】

上橋奈穂子

前作に続きバルサの物語りです。吊り橋から落ちた新ヨゴ国の皇 子を偶然救ったバルサは、皇子チャグムの用心棒を頼まれる...。 チャグムは不思議な運命を背負わされた<精霊の守り人>だった。 そして100年に1度の大干ばつから国を救えるのか。聖導師た ちは秘かに伝わる伝承の謎を、必死に解こうとする。 サグという表の国と、ナユグと呼ばれる裏の国。その境界を行き 来する老婆トロガイ。チャグムはふたつの国を同時に見ることが できた。国を救う<卵>を、守りきれるのか。 ますます、おもしろくなった上橋さんの作品です。人物像が鮮明 に立ち上がってきます。映像的にも美しい。バルサが自分を語る ショットが印象的です。8人の命を救う誓いをたてたバルサだっ たが「わたしはね、骨の随から、闘うことが好きなんだよ。羽を 逆立てて意味のない戦いを続ける、闘鶏と同じ...」そう言うのだ。


【闇の守り人】

上橋奈穂子

カンバル王国に、18年ぶりに戻ってきたバルサは、通り道の洞く つの中で、ヒョウル(闇の守り人)から二人の子どもを救った。 懐かしい叔母のユーカと会ったバルサは、育て親のジグロが故郷 では裏切り者の汚名を着せられていることを知った。ジグロはか つて、王国最強の短槍使いで、女のバルサにもその手ほどきをし ていたのだった。 そうしている間にも、過去の真相と新たな陰謀の計画を知られる ことを恐れる者たちの追っ手が迫ってきていた...。 バルサのりりしさが印象に残ります。意志の強さ、白魔石や青光 石の美しさ、谷に暮らすためのたくさんの知恵、暗躍する人のこ ころ、など。とても児童書とはいえない、レベルの高い物語でし た。「生な」人間が息づく世界を、見せてくれました。


【夢の守り人】

上橋奈穂子

用心棒のバルサは、奴隷狩人の手から『木霊の想い人』といわれ る特別の歌い手ユグノを救った。ユグノとバルサたちが休む家で は、呪術師の老婆トロガイの弟子・タンダの姪が不思議な眠りを 続けていた。星読博士のシュガからは、新ヨゴ国の一ノ妃も眠っ ていると知らせが入る。 トロガイは昔住んだことのある夢のような<花>の世界へ、魂を 呼びに行くことにする。美しいはずの、その世界をおおっていた ものは...。 上橋さんの独特の美しい物語です。夢の世界から魂を引き戻す力 とは何か。生きることの意味を考えさせてくれました。


【世界がもし100人の村だったら】

池田香代子再話c・ダグラス・スミス対訳

「100人のうち、52人が男性、48人が女性です」という文か ら始まり、「20人は栄養がじゅうぶんではなく、1人は死にそう なほどです。でも15人は太り過ぎです」と、続きます。「全ての 富のうち、6人が59%をもっていて、みんなアメリカ合衆国の人 です。74人が39%を、20人がたったの2%を分けあっていま す」となると、唸らずにいられません。 シンプルに語ると、見えてくるものがあります。 随分前のことですが、池澤夏樹の文章の一節を思い出しました。 「飢えた赤ちゃんに、粉ミルクはすぐには配給されないが、爆弾な ら、その日のうちに3万トンが届けられる」というものです。(数 字の記憶が確かであればいいのですが) 本屋さんでちょっと、手に取ってみてください。すぐ読んでしまえ るだけの分量です。そして、気に入られたらお家に買って帰ってく ださい。たぶん、ずっと本棚のすみっこで、気になる1冊になると 思います。


【童話物語上・下】

向山貴彦

小さなトリニティーの町の教会の掃除の仕事をしてかろうじて生き ている少女ペチカは、やさしかった母の思いでの写真を大切にして いた。管理人の守頭のおばさんや同じ仕事をしているルージャンた ちからもひどい扱いをされ、飢えて人を憎むようになっていた。 ある日、教会の釣り鐘を掃除していたペチカは、妖精のフィッツと 出会う。世界を滅ぼしに来たと思いこんでいたペチカも次第に打ち とけていくが、パン泥棒の汚名を着せられ、妖精を使って町を滅ぼ すと言われ、教会を首になり住んでいた小屋も焼かれてしまう。 雪の降る厳しい寒さの中、ペチカとフィッツは旅のおばあさんのほ ろ馬車に拾われる。しかしフィッツとの別れが待っていた。 パーパスの町には「天界の塔」という誰も上までたどり着いたこと がないと言われる高い塔があった。仕事以上の優しさをくれた花屋 のオルレアとハーティー夫婦。ペチカは悪意の妖精ヴォーや、ルー ジャン、そしてまたフィッツと出会った。けれど、そこに待つもの は、憎しみの「炎水晶」だった...。 これは壮大なスケールのファンタジーです。「童話」ではなく。ペ チカとフィッツだけではなく、たくさんの人間たちのこころの愛も 悪も描き出してみせてくれます。最後まで一気に読んでしまいたく なりました。フィッツやヴォーの妖精は昔見たアニメのディズニー を思い出させてくれます。そして生きることの本質を考えさせてく れるところは先日の「海辺の王国」に通じるものがあります。主人 公が少女で、ここまで書いたものとの出会いも衝撃的です。画的に は、宮崎駿の映画にしたいような魅力もある作品です。 これもお勧めですね。出会えてよかった。


【首飾り】

雨森零

僕・れいは小さな山村「虹沢」で8歳からおばあちゃんと住んでい た。感情をまっすぐにぶつけてくる強い目の光の少年・秋に、初対 面から惹かれてしまう。秋にいじめられてばかりいる少女・ななは 大きな目で淡い印象なのに、不思議に秋に似ていた。 僕達はいつも一緒だった。沢で釣った魚を焼いて食べ、カエルを花 火で吹き飛ばす。フクロウを見に行き、ヒナのため襲いかかったフ クロウに秋は傷つき、僕はフクロウをつかんだまま樹から落ちる。 中学に通い出した頃、僕たちは身長ののびだけではない体の変化に 気づく。少年や少女からの、大きな成長を迎える。そしてある嵐の 夜...。 こんなにもせつない感情を描いた作品が、日本にもあったのですね。 山や川などがいきづき背景だけに終わっていません。それらを体に 感じながら、感情や体を見つめ成長していく通過点が、とても美し いと思います。決して戻ることもできない、危うい時期。わたしは どんなふうだっただろう。こんなふうに見つめて書けるだろうか。 作者の雨森さんは、きっと書けるようになるまで胸の中にずっと火 を静かに燃やしてきたのでしょう。また作品の中の母親の不在。こ れも少年たちの美しさを増している要素かも知れません。 これは是非お勧めです。ずっとこころに残ると思います。


【ぼくがぼくであること】

山中恒

歌舞伎猫さんからのお勧めの本の1冊。児童文学というのはどこか 大人の偽善の匂いがしていた。だから読まなかった。この本はそん な偏見を覆された。初版が昭和51年2月、平成12年8月35版 (なんと!)ロングセラーだった。 平田秀一、いい名前を持った少年が家族、特に母親から叱られると きの心理がいきいきとしている。そうか。怒鳴ってばかりではだめ なんだ。秀一は家出をする。ひき逃げ事件の目撃、武田信玄の隠さ れた財宝の秘密など、新しい体験で彼は周囲の人間関係を変えてい く。秀一のような、目をキラキラさせた少年と最近は出会うことが 少ないですね。後味がいい本でした。


【時をこえてスクランブル】

竹内もと代

めぐみはカフェテラスから、スクランブル交差点をかけていく少女 を、毎日見ていた。少女に声をかけられ、交差点を渡るめぐみは、 不思議な体験をする。 少女の名は理沙。彼女は受験や弟のいじめや、両親のケンカという 問題を抱えていた。いつか交差点で会ううち、めぐみと理沙は親し くなっていく...。 これも児童書ですが、ふっと北村薫さんの「スキップ」を思い出し ました。こころの動きを丁寧に書くことが、気持ちのよさを引き出 してくれるのでしょう。きれいですね。


【海辺の王国】

ロバート・ウェストール

初めて児童書の魅力を知りました。たかが児童書という感覚を見事 に裏切られました。訳者も決して言葉を甘くしていなくて、大人の 読書として通用するいい作品です。「八方美人男」さまのページの お勧めでもあったのです。

空襲で家と家族を失った12歳のハリーは、イギリスの北の海辺を 出会った犬のドンとともに、生き延びるために食べ物を探し、安心 して眠れる場所を確保する。たくさんの知恵と技術を身に着けてい く。さまざまな人との出会いが、ハリーを大きくさせる。

そしてマーガトロイドとの運命的な出会いは、ハリーの求めていた ものがなんだったかを教えてくれた。そして、急展開...。

スティーヴン・キングに登場する少年たちと共通する、感動があり ます。お勧めの本です。


【お引越し】

ひこ・田中

「今日とうさんがお引越しをした。」という1行で始まる。11歳 の<レンコ>の目で両親の離婚が語られ、母と二人になった暮しが 語られます。関西弁が、どこか重くならずに済む役割を果たしてい ます。

少女(女の子)らしい考え方をあまり通過してこなかったわ たしには、別な世界ではありました。いずれにいても、結婚による 姓の不自由さを考えさせられます。あの夫婦別姓の法律って、どう なったのでしょうか。


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