デニス・レヘイン

【シャッター・アイランド】

連邦捜査官・テディとチャックは、シャッター島にあるアッシュクリフ病院から 捜査の依頼を受けて赴いた。精神を病んだ、犯罪者のための病院だった。女性患者・ ソランドが鍵のかかった部屋から、誰にも見つからずに行方不明になったというのだ。 謎のメッセージを残して。

捜査のほかにテディには別の目的があった。放火により妻のドロレスを殺害した男が 入っているという情報をつかんでいた。復讐するチャンスを狙っていた。嵐が近づき、 島が孤立していきつつあった。簡単な捜査と思われたのが、いつのまにか不思議な複雑 さを帯びてくる...。

最終の20ページが袋綴じされている装丁が、嫌でもミステリの雰囲気を醸し出して います。読みながら、どこかおかしいと思いながら、テディの語り口についつい飲み 込まれていきます。そして気がつくと、作家の仕掛けにみごとにはまっていたのでした。 う〜ん。やられました。マフィア世界を描くルヘイン(レヘイン=ああ、ややこしい) とは別な顔を見せてくれます。

【ミスティック・リバー】

ジミーは妻と3人の娘との暮らしに満足していた。娘のケイティの惨殺死体が 発見され、世界は一変した。きっと犯人を見つけ、復習してやると。

ジミーの少年時代の友人・デイウ゛は、その夜血にまみれて家に戻ってきた。 妻のシレストは、どこか狂ったような夫をなだめ汚れた服の始末をした。だが、 次第にデイウ゛の精神に不安を覚えていくのだった。

もう一人の友人・ショーンは州警察殺人課で、ケイティの事件を担当すること になった。25年前の、記憶の奥深く眠っていたできごとが、次第に浮かび上 がっていく。

ルヘイン(レヘイン)の作品の中では、少し歯切れの悪い感じがします。なかなか 人物像が歩き出さないもどかしさを抱えたまま、物語が進んでいきます。今回は 人物一人一人のこころの中へ入っていくという手法が、そうさせたようです。

ラストは、なかなかよかったです。「人間というのは弱い存在だから・・・」つ ぶやく声が、印象に残りました。

【スコッチに涙を託して】

ボストンの探偵・パトリックは助手のアンジーと一緒に仕事をし ている。
ある日二人の上院議員から、重要書類とともに消えた掃除婦ジェ ンナを探してほしいと依頼された。法外に高額の報酬が約束され た。
裏があると思っていたが、その日にうちにパトリックは銃を持った 男に襲撃される。ジェンナを探しだし話を聞こうとすると、書類な ど持ちだしていないという。なのに大勢の人間が、彼女を探そうと いていると...。

軽妙なユーモアにうずめ尽くされた文章に慣れるのに、時間がか かりました。しばらく海外ものから離れていたので。この皮肉っ ぽい雰囲気が、幼いころの父親からのトラウマに悩むパトリック と、離婚寸前のアンジーの心の傷みを一層際立たせているのだと 思いました。
探偵ものとくくってしまうにはあまりある、おもしろく、哀しい 作品です。

【闇よ、我が手を取りたまえ】

探偵・パトリックと助手のアンジーに、精神科医ディアンドラが 仕事を依頼してきた。
患者としてやってきた女子学生モイラは、ハーリーとつきあって いるが、異常なセックスを強要したり、彼女の別な相手を知ると、 殺したという。その後、ディアンドラはハーリーに脅されたのだっ た。

ハーリーはアイリッシュ・マフィアの元締め・ジャック・ルース の右腕だった。マフィアとのトラブルに巻き込まれるのか。迷う パトリックの背をアンジーが押した...。

デニス=レヘインの2作目です。1作目から段違いのおもしろさ です。牢獄からのメッセージという設定も、意表をつき、複雑な 人間の心理の深さに慄然とさせられます。
パトリックの友人ブッバや、刑事のデヴィン、終身刑のアレンなど、 人間像がじつに明確に浮き上がりました。マフィアの元締めさえ、 その存在感がすごい。ハードで、ダークでいて、人間味のある作品 です。

【穢れしものに祝福を】

麻酔を使って運ばれた探偵・パトリックと助手のアンジーは、そ こで仕事の依頼をされた。余命が残り少ない大富豪トレヴァー・ ストーンは、最愛の娘・デジレーが失踪したのだ。
最初に捜査を依頼した優秀な探偵・ジェイ・ベッカーも行方不明 になり二人にまわってきた依頼だった。断れない状況になってし まう。
デジレーは、母親が亡くなり、父親がガンの告知を受け、恋人が 溺死したショックを抱えているという。

だが捜査を開始した事件は、どこかうさんくささがつきまとって いた。パトリックとアンジーは、危険な橋をわたることに...。

デニス=レヘインの3作目です。おもしろさが増してきます。こ の作品はテンポも速く、複雑な人間の本質をたくみに突き詰めて いきます。今年であった作家の中でも、群を抜いています。 次作が楽しみです。

【愛しき者はすべて去りゆく】

4歳の娘アマンダが姿を消し、アルコール中毒でテレビを見続ける 母親のへリーンは探そうともしなかった。伯母のビアトリクスから、 探偵ケンジーとアンジーに捜査の依頼が入った。
話を聞くうち、失踪事件には複雑な背景があることを思わせた。警 察ももちろん捜査を開始していた。しかし自分を見失っているよう に見えるへリーンの涙が、ケンジーたちを事件に踏み入らせた。

捜査の中で傷つくのはいつもなのですが、精神的にもダメージを受 けていく、過酷な事件でした。人間を信じられなくなるような悲惨 な状況が、次々に起きていきます。そしてほんとうに「失う」こと の、過酷な現実が突きつけられます。アマンダを救出しようとした 時、その行為が正しい選択なのか、迷うケンジーたちの議論に涙ぐ ませるものがありました。レヘインの作品の中で、もっともこころ が痛む作品でした。没頭して読んでしまいました。

途中で「このミステリがおもしろい2002年」が発表になり、レ ヘインの次の作品が上位ではありませんが選ばれました。書店では、 さっそく平積みで並びました。読者としてはうれしいことです。

【雨に祈りを】

優雅な身なりのカレンから、誰かにつけ狙われていると依頼を受け た探偵ケンジーとアンジーはあっさりと当事者を見つけ、二度とし ないことを約束させて、その件は終わったかに見えた。
半年後、カレンは全裸で投身自殺をする。だが、ルームメイトはカ レンが売春まがいのことをしていたという。失業し、家を失い、恋 人を事故で失い、精神に変調をきたすまで、彼女を追い詰めたもの は何か。カレンの母親と義父ドウ夫妻は、自殺だと思いこもうとし ているように見えた。

最初の想像をくつがえされていくレヘインの作品は、ほんとうにお もしろいです。一見なにも見えないちょっとした事故が、深い闇と つながっていく展開が実にうまいと思います。次作の出版が待ち遠 しいです。

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