夢枕獏

【神々の山嶺】

エヴェレストなど、8,000m級の山。地表からもっとも高く、 気温が氷点下40度、酸素も薄く、強風と吹雪が荒れる氷壁によ じ登っていく...。わたしの知らない世界でした。

カメラマン・深町はカトマンドゥの街で、登山史上の謎を秘めた 古いカメラを手に入れ、追いかけて出合ったのは、伝説の登山家 羽生丈二だった。秘かに彼が目指していたのは前人未到の、エヴェ レスト南西壁冬期無酸素単独登頂...。
羽生を支える老シェルパ・アン・ツェリン。日常という仕事も何 もかも捨てて、山に登ることを決意する深町。長い準備期間を経 て、ついに登頂へと向かう。地上の半分以下の酸素の中では、カ メラのシャッターを切るだけで、息が上がる。速い呼吸を苦痛の 中で繰り返す。高山病にかかると幻聴や幻影を見る。

人はなぜ山に登るのか...。この中に、見つけられると思います。 重いザックを背負い、一歩づつ体を押し上げて行くことにのみ、 意識を集中して登っていく。不安や幻想にさいなまれ、極限で見 るものとは...。圧倒的な迫力に、気押されてしまいます。

手記の部分がすごい、と思う。凍傷になりかけた指でつづる文章。 一緒に意識を失ってしまいそうになりました。そして、その世界 に共鳴できる自分という存在を、確認しました。生きていくこと がどんなに大変でも、この極限を知っているなら、超えられるの ではないかと思わせてくれる本でした。

【陰陽師】【陰陽師飛天の巻】【陰陽師付喪神の巻】

話題作に背を向けたいひねくれのわたしですが、立ち読みをした ら、ハマってしまいました。これは続けて読むことになりそうで す。できれば、避けたかったのですが...。

京都・平安時代。闇が闇として残り、妖しの存在を信じていた人 がいた頃の物語である。陰陽師・清明のもとを友人の博雅が訪ね てきて、酒を飲みかわしていた。帝の大切にしている琵琶が盗ま れたという。しかも、宿直のおり琵琶の音を聴いたという...。

菅浩江さんの作品を読んでいたから、すんなり入っていけたのか も知れません。妖しの世界の魅力に誘い込まれてしまいました。 京都・平安時代。陰陽師・清明を友人の博雅が訪ねるという設定 で、物語は展開します。

強烈な印象が残るのは、「陀羅尼仙」「源博雅堀川橋にて・・」 「鉄輪」「ものや思ふと・・」「這う鬼」などがあります。
あら筋を書いてしまうと、興醒めになりそうなので、清明が博雅 に語る言葉を引用します。
<鬼あるからこその人よ。鬼が人の心に棲むからこそ、人は歌を 詠み、琵琶も弾き、笛も吹く。鬼がいなくなったら、およそ人の 世は味気ないものになってしまうだろうな>
短いセンテンスの間には、深い闇が広がっているような物語です。 いまの時代だから、惹かれてしまうのかも知れません。

yui-booklet を再表示

inserted by FC2 system