森博嗣

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作品名出版社
四季 春講談社ノベルス
四季 夏講談社ノベルス
四季 秋講談社ノベルス
四季 冬講談社ノベルス
すべてがFになる講談社文庫
有限と微少のパン講談社文庫
数奇にして模型講談社文庫
今はもうない講談社文庫
冷たい密室と博士たち講談社文庫
幻惑と死と使途講談社文庫
笑わない数学者講談社文庫
夏のレプリカ講談社文庫
人形式モナリザ講談社ノベルス
黒猫の三角講談社ノベルス
まどろみ消去講談社文庫
詩的私的ジャック講談社文庫
封印再度講談社文庫
六人の超音波科学者講談社ノベルス

「四季 春」

「すべてがFになる」「有限と微少のパン」の真賀田四季博士にも、幼少時代が あったのですね、当然ですが。つい、過剰な期待をして読んでしまいました。

病院の廊下でビー玉遊びをする少年たちを、「僕」と四季は見ていた。 ほかの誰もが、見なかったことにして視線を背けるのに「なぜ顔に包帯を巻いて いるの?」と、彼女はまっすぐに質問をしてきた。答えにくい質問だった。

3歳の四季は父の書斎の本を読み、百科事典を一度見ただけでスキャンした。そ の後数カ月で英語とドイツ語をマスタした。6歳には電子工学を、ただし森川助 手の手を使ってだった。学業といくつものプロジェクトを同時進行させた。

そんなとき、病院の廊下前の一室で看護婦が殺された。「僕」と四季は、それを推 理した。だが、警察は犯人を逮捕できなかった。

シリーズの「春」だから、まだ始まったばかりですが、次を期待させるのに充分な おもしろさです。「僕」の描き方が、類型的な役になり過ぎた点と、全体が『純粋な』 年齢を意識したのか、きれい過ぎるのが惜しまれます。どこまで、四季の成長が見 られるのか、楽しみです。


「四季 夏」

13歳の天才少女・真賀田四季は、叔父・新藤清二を自身の持つ渦に巻き込んでしまう。 父の真賀田博士は娘のため、離島に最先端の技術を駆使した施設を建設していた。
新藤清二と一緒に遊園地に来ていた四季は、N大の瀬在丸紅子の存在が気にかかる。 遊園地と同じ敷地内で発生した美術品の盗難事件が、四季を思いがけない方向に運び 行方不明になる。

天才故に欠けた感情が、四季を別な世界へと誘う・・・。

「四季 春」から、一段と成長した少女の中に育つ「悪」の芽が描かれて行きます。 「すべてがFになる」「有限と微少のパン」の真賀田四季博士の圧倒的存在感を、ま るでタイムトラベルしているような「四季」シリーズ。結果が先に分かっていても、 おもしろく読ませるのは、真賀田四季博士のキャラだからでしょう。


「四季 秋」

萌絵と犀川教授のシリーズ・外伝めいた作品です。真賀田四季博士の成長と 異端の思考を見せた「春」「夏」とは、少しずれたものになりました。博士を もっと描き込んでほしかった・・・。読者の、わがままでしょうか。


「四季 冬」

犀川は真賀田四季博士の元を訪れる。青く、いかなるものにも連動しない、孤立 した輝きを持つ、瞳。繊細なガラス細工のような四季との、わずかな質問と返答 が印象的です。沈黙の3秒間。「人間がお好きですか?」「ええ」。ここで煙草を吸 う犀川像に、近頃の喫煙者の居心地の悪さを代表させ、扱いがほほえましい。

草原を歩く、四季。一方で暗闇の中に沈み、既に構築された構成則を修正、微調整 する作業に没頭する。そして其志雄(きしお)と四季との会話の、なんという心地 よさ。森さんは、ここが書きたかったから4作を書いたのではないかと思うほどの 出色部分です。

両親殺害、その後の軌跡も、すべてを超越してしまった孤高の四季が、圧倒的存在感 で描かれています。詩的に、美しい第1章「白い部屋」、2章以後は小説としての 構成上書かれなければならなかったけれど、極論は、なくてもいい。などと、わたしの 思考もどこか、四季にシンクロしてしまっているのです。

「秋」編が惜しいです。ここでもっと大きな思いがけない展開があったら、と読者の わがままです。四季の存在が、森さんを超えられなかったのでしょう。


【すべてがFになる】

孤立した島でキャンプをしていた、犀川と萌絵が訪れたハイテク研 究所で、死体と遭遇してしまう。
しかもウエディングドレスをまとい、両手両足を切断されていた。 15年間社会から隔離され研究生活を送っていた、天才工学博士・ 真賀田四季である。謎を解きあかそうと、二人が探りはじめると、 第二の犠牲者が....。

登場人物がたくみに描かれ、興味をつなげてくれます。なかなかお もしろいです。


【有限と微少のパン】

「すべてがfになる」の、延長線上にあるもっとも近い作品です。

ソフトメーカー「ナノクラフト」のテーマパークを訪れた助教授犀 川と萌絵たちを待っていた事件とは、死体のない殺人だった。確か に、見たはずの死体が消えた?教会の中に残されたのは、腕だけだっ た。萌絵たちはどこからか、見られている?盗聴?そして、天才工 学博士・真賀田四季が登場する...。

これは「すべてがfになる」をぜひ読んでから、読まれた方がいい と思います。人間の存在の不確かさや、何が存在を規定するのかな ど彼女の明確な思考展開が、感動的です。それと萌絵の思考、犀川 の思考の違いが際だちます。

真賀田四季が、とにかく息を飲むほど美しいと思いました。この2作 だけでも、森博嗣と出会えてよかったと思える、すごい作品です。


【数奇にして模型】

m工業大学の研究棟で、第一の密室殺人事件が起きる。第二の事件 は、模型交流会の開かれた公会堂の控え室だ。首を切断された女性 の死体があり、そばに萌絵の知り合いの寺林が倒れていた。

SLが走る小さな空間のジオラマや、人形などのマニアたちの心理が 伝わってくる。それと同時に、ほんの少し狂気に傾斜したこころも。

ノベルスの本の重さは、はんぱじゃありません。それにページを開 き続けるために、指に力がかかります。これだったら、単行本の方 が読みやすいです。本そのものへの不満とは別に、この回のはぜひ お勧めです。森博嗣は、長篇がおもしろいと思います。


【今はもうない】

萌絵の近くの別荘で、事件は起こった。嵐の夜、女優の姉妹がそれ ぞれ別の密室の中で死体で発見される。二人とも首を絞められてい た。2つの部屋を結ぶのは、片側からしか行けない細い通路だけ。 嵐の夜に何が起こったのか。

今回は「私」という人物の側からの描写が多い。「私」とは誰なの か。これは最後までわからなかった。事件の方は、最初におおよそ 推測できたが、つい引き込まれて読んでしまいました。


【冷たい密室と博士たち】

助教授犀川と学生の萌絵が訪れた低温度実験室。宇宙服のような防 寒具を着ての実験を見ている間に、姿を消した二人の学生。やがて 死体となって発見される。大量の警察も投入されての捜査にもかか わらず犯人探しは難航する。そして追い討ちをかけるように、次の 殺人事件が発生し、黒い手は萌絵にも伸びてくる...。

冒頭からたくさんの伏線が張られ、いくつもの言葉が印象的に残り まるでダイヤモンドの鉱脈を発見して行くような感じがする。
今回もパソコンがうまく道具として使われ、うまいな、と思う。


【笑わない数学者】

天才数学者天王寺翔蔵博士の住む三ツ星館を訪れた、助教授犀川と 学生の萌絵たちの目の前で、5メートルのオリオン像が消えた。博 士から出された数学の宿題。再び現れたオリオン像の前には死体が ...。

話の筋とは違うが、数学の問題が楽しめる。今回は残念ながら、途 中で仕掛けがわかってしまったので、あとはなぜ殺されたかの理由 と人物の描き方に興味を持った。わたしがわかる程度の仕掛けでい いのだろうか?次作に期待したい。


【夏のレプリカ】(偶数章編)

萌絵の友人、簑沢杜萌は帰省した実家で、仮面をつけた男たちに誘 拐される。そして他の家族も誘拐される。犯人たちの仲間割れか、 男女二人が殺される。杜萌たちが無事に戻ったが、兄の素生が行方 不明になる。

助教授犀川と萌絵は、事件に関わっていく。仮面の謎がおもしろく これはかなり最後までわからなかった。森博嗣のうまい作品だと 思う。


【幻惑と死と使途】(奇数章編)

「夏のレプリカ」とのセットになっています。どちらを先に読んで もいいようです。おもしろい試みだと思います。

助教授犀川と萌絵が出かけた大掛かりなマジックショーで、天才奇 術師有里匠幻が入った箱が爆破され、彼は脱出することになってい た。ところがステージに戻った匠幻は大勢の観客の目の前で殺され てしまう。犀川と萌絵は、またまた関わってしまう。

途中でなんとなく事件が見えてしまうのだけれど、萌絵の性格を描 くエピソードや、犀川との距離感などを楽しめるので、ついつい読 んでしまいます。そして読後感がいいのです。


【人形式モナリザ]

人形博物館の舞台で「乙女文楽」が上演された。文楽の人形の動き などがとても魅力的。
ところが観衆の観ている前で、役者が殺される。探偵の保呂草と瀬 在丸紅子は、観客として観ていた。客席は騒然となった。どういう 手段で殺されたのか、動機は?謎は深まっていく。
さらに、美術館からは、不可能な状況の中で絵が盗まれた。友人の 香具山紫子などのメンバーと、事件に関わっていく。人形コレクタ、 乙女文楽の継承者など、複雑な人間関係が浮かび上がってくる...。

小説全体が、舞台の設定のように見えてきて、おもしろい作品です。


【黒猫の三角]

探偵の保呂草は、小田原静江から殺されるのを未然に防いでほしい という依頼を受ける。
1度目の殺人事件は3年前の7月7日・11歳の子ども。2度目は 2年前の7月7日・22歳。3度目は1年前の6月6日・33歳。 不思議な数字合わせの殺人事件の記事のコピーが送られてきたのだ という。そして静江は今日が6月6日で自分が44歳だと..。

いつもの助教授犀川と萌絵が登場しない作品です。とまどいながら 保呂草のこころの動きに惹かれて読み進んで、あ、という感じの展 開に。数字の好きなわたしとしても、興味深いものでした。


【まどろみ消去】

11の短編集です。短編はものたりないと思うことが多いのですが、 この作品はなかなかおもしろかったです。人物がきちんと浮かび上がっ てくる。そして思わず本を読みながらにやりとしてしまうほど、魅 力的な人間たちです。

「真夜中の悲鳴」のスピカ。「キシマ先生の静かな生活」のキシマ 先生。周囲にこんな人物がいたら、おもしろいでしょうね。


【詩的私的ジャック】

助教授犀川が非常勤講師として訪れた大学の、ログハウスの中で死 体が発見される。内部からロックされた密室状態だった。そして別 の大学で次の密室死体が....。

共通しているのは、裸にされ体に文字と思われる傷が刻まれている こと。人気のロック歌手などに容疑がかかった。
助教授犀川と学生の萌絵は、次第に事件に首を突っ込んでいく...。

今回はさまざまな音が効果的に使われ、興味深い。音楽はもちろん バイクの音などなど。萌絵の人物像が、一層くっきりと描かれてき たのも、おもしろかった。


【封印再度】

仏画師・香山風采は息子・林水に、カギの入った壺とそのカギで開 ける秘密の箱を残して50年前に自殺していた。孫娘のマリモが萌 絵に話したことから、萌絵は事件に関わっていく。
マリモが交通事故を起こした時、林水が謎の死を遂げる。そこにま た壺と箱が登場し、事件を複雑にしていく。

謎を解きあかそうとする助教授犀川と萌絵の微妙な距離が、この事 件の間にハプニングが起き、大きく変化する。これは読者サービス かな。


【六人の超音波科学者】

深い山奥にある超音波研究所が舞台。研究所に通じる橋が何者かに 爆破され、外部から閉ざされた。仮面の博士の主催するパーティー に会場で殺人事件が発生する。保呂草、瀬在丸、香具山、練名たち のメンバーは、その場に居合わせた刑事・祖父江七夏に協力して、 事件を解決しようとするが、第2の殺人事件が起きてしまう...。

このシリーズは、ちょっと物足りないです。「有限と微少のパン」 が、おもしろすぎたからでしょう。設定のタネが以前と同じ感じが します。先が読めちゃうと、どうもだめです。初めての方は、充分 楽しめると思います。

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