舞城王太郎

「ディスコ探偵水曜日 上・下」

迷子探し専門の探偵・ディスコ水曜日は、解決した誘拐事件の依頼主から梢を押しつけられ、 一緒に暮らすことになる。小さな梢がいきなり14歳くらいの体型に大きくなり、また小さくなると いう不思議な経験をする。さらに未来の梢の身体に桔梗が現れる。ノーマ・ブラウンこと勺子が 聞き出し、梢は男に犯されたらしいという。11年後の梢の時代に起きたパンダ誘拐事件と、 11年前に起こったパンダ誘拐事件と、いま起きているパンダラヴァー事件。いきなり部屋に入って きた助手の星野と水星Cと、時空を超えた事件を解明しようとする。だが、無限の謎を孕む館・ パインハウスや、この世を地獄につくりかえる漆黒の男が交叉し、翻弄される。

事件のわずかな真実が現れようとすると、足元から崩れ、新しい宇宙空間が見え、わたしの知っている 宇宙理論も覆してしまう展開でした。最初から張り巡らされた伏線も、なつかしい九十九十九や ルンババの登場も、壮大なストーリーのカオスの中でかく乱され、ラストまで息が抜けませんでした。 とんでもない発想と妄想とが作る、舞城さんらしいおもしろさです。ソフトカバーとはいえ、上巻 621、下巻452ページはかなりの分量があるので、ちょっとためらいましたが、読み始めたらもう 止まりません。あっという間に舞城さんの世界に引きずり込まれ、ジェットコースター並みの展開を ひさびさに楽しみました。

【暗闇の中で子供】

舞城作品4作目です。ちょっとスピード感やパラレル感が失速したようです。 あるいはわたしの心理状態が、受けつけなかっただけかも知れませんが。

ベートーベンの「悲愴」が流れる。二郎のピアノはいつ聴いても、三郎はかなわないと思ってしまうくらいだった。だが、ラフマニノフの「ピアノコンチェルト第三番」 だけは二郎以上の存在だった。

売れないミステリ作家三郎は、野崎博司が三郎の両親と長男一郎と他の家の主婦 5人を襲い、四郎に殺された時、何も書けなくなってしまう。

そんなある日、13歳の少女ユリオがマネキンを田んぼに埋めているを見てしまう。 謎は新たな展開をする・・・。

この作品で多少のマンネリを感じさせながら、否応なくぶっ飛んだ世界に引きずり 込む力はさすがです。

【九十九十九 ツクモジュウク】

「僕」は、この世に生まれでた時、あまりにも美しくて医師も看護婦も失神 した。歌うと、またバタバタと失神してしまう。19歳の看護婦・鈴木美和子 は僕を誘拐し、毛糸の帽子をかぶせ、体温計の水銀で声を潰した。

鈴木君が妊娠出産して自分の子を産んでも、僕への怪物的愛情は変わらず、 日常的に殴ったり蹴ったり、耳をそぎ目をくり抜いた。恋人の加藤君の手で 病院に運ばれ、鈴木君は刑務所に入り僕と弟のツトムは、加藤君の実家に いくことになった。加藤君の両親と長男夫婦とその子・セシルとセリカと 暮らすのだ。

九十九十九という名前をもらい、地下に閉じ込められたままの僕はテレビで 学び、実写とアニメの2つの世界に分割されていることを知った。セシルと セリカは「幻影城」で殺りくを繰り返す。僕は二人のペットになる。

12年後、鈴木君が刑務官を殺し脱走した。長男夫婦の妻・順子さんの死体が 発見される。僕は鈴木君から逃げるため、地下室を飛び出した。

清涼院流水さんのシリーズに登場する「幻影城」「九十九十九」を、舞城さんは 見事にひとつの物語に変えてしまいました。急テンポで進むいくつものストー リーは、現実と想像の世界が危うく入り組んだ、まさにパラレル・ワールド です。暴走するバイクの後部座席か、ジェットコースターから見る世界という 感じがします。

強引な牽引力に、600ページをだれさせずに読ませられてしまいました。 読者が混乱しそうになると、絶妙なタイミングで、整理してみせるサービス 精神も持っているのです。

ラストに、気持ちがしんとさせられるのは3作の、どの作品にも通じます。ま た、「体の痛み」をさらりと、でも強烈なインパクトを与える描き方が独特で す。「世界は密室・・」では屋根から飛び下りた涼ちゃんが、骨がぐしゃぐしゃに 折れ、足の骨が喉に突き刺さって。「煙か・・」では父親が息子を絶望的なまで 叩く。

現実としての体感覚と、想像としての言葉操作のおもしろさが巧みです。

【世界は密室でできている。】

「僕」と隣家のルンババは、2年前、涼ちゃんが屋根から飛び下り自殺をするのを、 止められなかった。

涼ちゃんの弟だったルンババは、そのとき12歳、僕は13歳だった。ショック性の 発疹で入院していたルンババが退院すると、僕たちは、家出を繰り返していた涼ちゃ んの窓を、鉄格子で囲み部屋に閉じ込めようとした父・耕治氏の痕跡を見つけた。そ れでも脱出できるところをパパに知らせたくて、屋根から飛んだ涼ちゃん。

2年後、中学の修学旅行に行った僕たちの前には、とんでもない事件が発生し、密室 の謎を解いていく。

舞城さんの頭脳回路を覗いてみたい、などと思ってしまう小説です。コマ漫画も活きて います。文章も展開に合わせたおもしろさです。通低音としての青春と、密室の思い きった構想が、新しいミステリーを見せてくれました。

【煙か土か食い物】

救命外科医・奈津川四郎は、ERで腕を振るっていたが、母陽子が殺人未遂事件に 巻き込まれ重体だと知らされ、日本に戻った。

待っていたのは母だけではなく、奈津川家の祖父・大丸と父・丸雄との家族の 過去が、ぱっくりと口を開いて待ち構えていた。兄弟の一郎・二郎・三郎をも 含めての確執の歴史と、二郎の行方不明事件が明らかにされる。

陽子と数件の連続殺人未遂事件は、どんなメッセージを持っているのか。メス さばきも鮮やかに、謎が明かされていく。

ミステリとしての設定のうまさと、父と子の執拗に永遠に続くのかと思える、 絶望的な争いの描き方がすごいです。父親を乗り越えなければならない、男性 とはすさまじいと思わされます。基本のミステリのおもしろさと、人間ドラマの おもしろさが、充分に発揮されています。

舞城さんって、何者?と、つい言ってみたくなります。ここまで、めちゃくちゃで いながら、強引過ぎるほどの解決までの牽引力。おもしろい作家ですね。

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