西澤保彦

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作品名出版社
無限巡礼講談社文庫
夏の夜会カッパノベルス
複製症候群講談社文庫
ナイフが街に降ってくる祥伝社文庫
依存幻冬舎文庫
謎亭論処(めいていろんど)祥伝社ノンノベル
スコッチ・ゲーム角川文庫
彼女が死んだ夜角川文庫
麦酒の家の冒険講談社文庫
幻惑密室講談社文庫
解体諸因講談社文庫
完全無欠の名探偵講談社文庫
人格移転の殺人講談社文庫
異邦人 fusion集英社文庫
神のロジック 人間のマジック文藝春秋
方舟は冬の国へ光文社ノベルス
殺意の集う夜講談社文庫
七回死んだ男講談社文庫

「無限巡礼」

十年前殺人事件の現場から行方不明になった、流(りゅう)からの突然の電話で、別荘に 呼び出された警察官・奈蔵渉(なぐらしょう)は、上司の能解(のげ)警部に同行を依頼した。 当時、大学浪人をしていた渉は母に殺されかけ、母はまだ出所していなかった。同じ年、父も殺害 され、犯人は捕まっていない。流の姉・さやかが殺され、当時父が再婚予定だった女性の 娘・奈緒美が殺されている。異常な年だった。渉もまた、連続殺人に手を染めていた。別荘は その記憶の場所でもあった。

十年前の殺人事件と、タイムスリップとの組み合わせで、時間軸を混乱させて読ませていきます。 西澤さんの中でも、また母親像の嫌なキャラが登場です。全体としてはおもしろいのですが、 どうもマザコンの描写が病的で、好きになれないのが残念です。


「夏の夜会」

祖母の葬儀のために、小学校以来30年の、戻っていなかった街へ帰省した見元は、ついでに かつての同級生の結婚式に出席した。二次会で、鬼ババアと呼ばれた、教師の井口加奈子殺害 事件が話題になる。ヒステリックな性格と、体罰を思い出した。5人が語るうち、それぞれに かなりの記憶が違っていることに、気付く。新築中の隣の旧校舎で、井口は父兄の誰かと 会っていたとか、夏休み最後と言いながらも事件の日さえ、あやふやだった。

なぜか必死に事実を突き止めようとする早紀に、引きずられるように、アルバムを見たり するうちに、思いがけない方向へと展開する。

西澤さんらしい、二転三転するおもしろさがあります。記憶とは何か。その曖昧さ故の、 過去の事件の推理が、見せ所です。


「複製症候群」

大学受験を前にした下石(おろし)貴樹は、サトルとアツシと草光陽子もう一人の 女の子は、担任の病気見舞いにでも行こうかと話していた。突然、目の前に光る壁が 現れた。近くにいた犬が、壁に触れると壁の中から犬のコピーが出てきた。閉じ込められた 壁から脱出しようとサトルが突っ込むと、コピーができてしまった。裸のサトル2号だった。

閉ざされた空間で起きる殺人事件が、人間の複製という現象と絡んでいきます。楽しめます。


「ナイフが街に降ってくる」

女子高生の真奈が横断歩道を渡ろうとした時、時間が止まった。午後2時5分、周囲はまるで 無音室のように街の喧噪が消え、人は映像を止めたかのように、静止してしまった。地面に 倒れている男の腹には、ナイフが突き立てられていた。そばにいた黒づくめの男が、動いた。 末統一郎。目の前で男が倒れ、おかしいと疑問を持ったら時間が止まったという。いままでにも 経験があり、疑問が解決するともとに戻るのだと。真奈は必死に考えた。

時間が止まった中で、二人だけが動くという描写がおもしろいです。動かない街の人たちに いたずらをしてしまう真奈のキャラは、いただけないですが、進行役としてはいい設定でしょう。 西澤さんのこういう「お約束もの」は、いいですね。


「依存」

ウサコの視点から描く、タカチ&タックシリーズです。文庫本で600ページを超える 長編です。白井教授宅で、飲み会を開こうとするいつものメンバー。わたし=ウサコ。 タカチ&タック。ボアン先輩。ルルちゃん。ケーコ。カノちゃん。改築をした家と書庫を 見せようという白井教授の誘いだった。

ルルちゃんのマンションではゴミ出しをしに行く階段ドアに、小石が挟まれる謎。カノ ちゃんと雁住クンとの別れ話。ボアン先輩の子どものころの幽霊話。雑談めいた話が いつものお約束で、最後にまとまって行く。今回は、タックの母・美也子さんが登場する。 子どものころの記憶に苦しむタック。立ち向かおうとするタカチ。

人間の愛憎劇がかなり、どろどろタッチで描かれます。ちょっと重いですね。


「謎亭論処(めいていろんど)」

タック(匠千暁)に、女子高校の教師の辺見はどう思うかと尋ねる。夜遅くまでテストの 採点をして、いったん職員室を出たが忘れ物を思い出し戻ると、テスト用紙が消えてしまって いた。駐車場に止めていた車も消えていたのだった。「盗まれる答案用紙の問題」

8編の短編集です。フック、フックという感じでしょうか。「新・麦酒の家の問題」が、 ひとつの仮説を構築していき、結論にいく手際の良さが光りました。


「スコッチ・ゲーム」

2年前タカチ(高瀬千帆)は、清蓮学園の女子寮でルームメイトだった鞆呂木(ともろぎ)恵が、 殺される経験をしていた。メッタ刺しだった。二人は絆の明かしに指輪を交換していた。それ なのに、女たらしと噂される惟道教授と「できている」という噂が広まった。タカチは惟道には 万引きの汚名を着せられてもいた。恵を許せなかった。だが、殺されるとは。傷心のタカチは 犯人が捕まらないまま、地元を離れた。

大学の友人たちとの酒席で事件を推理した。タック、ボアン先輩、ウサコの4人は、ある核心に 近づいてしまった。謎を解くため、4人はタカチの故郷にいくことにした。

いままでのシリーズでは、冷静切れ者として描かれているタカチの過去を、描いてみせます。 今回は、どろどろな人間関係が、全体を重くしてしまったようです。


「彼女が死んだ夜」

両親ともに教師で厳格に育てられた浜口美緒が、久しぶりに大学の友人と居酒屋で過ごした。 葬儀で両親が留守にしている部屋に戻ると、見知らぬ女性の死体があった。このままでは、 念願のアメリカ旅行がだめになる。助けを求められ駆けつけたのは、ガンタと僕(タック)と、 ボアン先輩だった。4人は死体を捨てることにする。ただし、警察への通報をする条件付きだった。

冷静なタカチが加わり、後日喫茶店で推理を重ねることになる。死体脇のストッキングに入った髪の束や、指輪、傷の状況などから。

酒席での無駄話のひとつひとつまでが、事件真相への伏線というこだわりがおもしろいです。 死体現場に直接関わってしまう点や、タックとボアン先輩が恐い「お兄さん」から暴力を振る われたりと、机上の推理から踏み出したシリーズ物です。


「麦酒の家の冒険」

夏の終わり、高原の国民宿舎での休暇を終えた僕(タック)と、タカチ、ボアン先輩とウサコの 4人は、車で帰途に着いた。途中で交通事故と雑木林の火事で通行止めに合い、迂回路を走って いると、今度はガス欠になる。3時間も歩き続けてくたくたになった頃、無人の洋館があった。 おそるおそる入ると、ベッドがひとつあるだけで家具がなかった。しかし、2階の冷蔵庫には ビールの缶が、50本以上も冷やされていた。ビールを飲みながらの、推理が始まった。

わずかな情報をさまざまに組み立て、崩し、また構築していく。西澤さんは、じつにうまいですね。 およそのアタリが着くのを、しっかりと最後まで引っぱり、ちゃんとオチをつけてくれます。 このシリーズは、キャラがいい味を出していると思います。


「幻惑密室」

500名の社員の中から、ワンマンの社長宅の新年会に招待されたのは、秘書の友美と 受付嬢の千絵、そして平社員の治夫と、譲だけだった。女性二人は社長の稲毛の愛人で、 最近飽きられている不安を抱えていた。譲は役立たずの社員として知られている。奇妙な 面子だった。仕出し屋と酒屋の配達を催促しようと、友美が電話をかけようとすると 不通だった。携帯もつながらない。外に出ようとすると、なぜか玄関から一歩も出られない。 不思議な密室状態の家で、社長の死体が発見される。

事件の担当は能解(のせ)警部と、白の着物に袴姿の『超能力問題秘密対策委員会』の神麻 (かんおみ)だった。作家のはしくれの保科に、協力してほしいという。

「お約束」の美少女、天然ボケ系の美女との、事件解決の推理が展開されます。「チョーモンイン」 シリーズ物第一作です。なんともまどろっこしい展開は、苦笑せずにいられませんが、悪くは ありません。また作中で男社会の女性観を述べ、さらに逃げを打っているあたり、西澤さんは 確信犯ですね。


「解体諸因」

暇を持て余したヤスヒコは、学生時代からの友人・匠千暁(たくみちあき)のアパートを 訪れた。彼は去年の新聞記事を読んでいた。酒を飲みながら、2件のバラバラ殺人事件を 推理していった。『第一因 解体迅速』
女子高教諭の祐輔は、学生の双子の麻紀子と亜紀子の話を聞いているうちに、バラバラ殺人を 推理してしまう。『第二因 解体信条』

死体を切断する短編集だと思いながら読んでいくうち、『第八因』の作中作に気づいたときには、 西澤さんの手中にみごとハマっていました。この章は舞台の脚本の体裁なのです。それが、まず よく出来ているのです。キャラをイメージできて、舞台転換もおもしろく、ちょっと強引な 推理がひっかかったのですが、次の『最終因』で解決してみせてくれました。やっぱり、伏線は しっかり収斂していくのです。七つの生首がすげ替えられる連続殺人事件。じつに、おもしろい です。


「完全無欠の名探偵」

女性家庭教師が持ってきた、ケーキの箱に入っていたのは鳩の死骸だった。憧れていた彼女を、 一瞬にして失った少女は、やがて謎を解き明かそうとする。

大富豪の孫娘・りんが勤務することになった女学院短大に、ひそかに山崎みはるが監視役として 送り込まれる。彼が話を聞くと、誰もが高揚し勝手に記憶をたぐり寄せ、真相を見つけ出していく 現象を起こす力があるのだ。職員一人一人が、過去の記憶を推理し始め、思いがけない方向へと 動き出す。

時空をみつめる少女と、学院のストーリーも絡んでいき、読ませますね。高知の方言も意図的に 使われ、殺人事件という重さを軽くしてくれます。精密なストーリー展開は、やはりおもしろい です。

登場人物名の、『木賊(とくさ)』『朱華(はねず)』など、あいかわらず凝っています。読みながら、ときどき忘れて苦笑してしまいます。理想化された家族と、少女像は、「ありえねー」と いう突っ込みを入れたくなりますが、それらを否定すると、西澤作品を読めなくなるので、あえて 触れずにおきましょう。


「方舟は冬の国へ」

ひと夏を家族として振る舞う仕事を引き受けた和人は、主人の『末房信明』に。妻の『栄子』、 娘の『玲衣奈』とともに、監視カメラと盗聴装置つきの別荘での、奇妙な暮らしが始まった。

仲睦まじい家族を演じるおかしみと、築かれていく絆が皮相に思えていく中、仕掛け人の意図は なにか、そして隣の別荘から覗く男の目的は何か・・・。

ミステリーとして、比較的安易な方でしょう。早い段階から、結果を予想させてしまうのだけれど、 楽しく読ませてくれました。家族って、なんでしょう。読後感がいいですね。


「殺意の集う夜」

友人の園子が思いを寄せる大学教授・一日宮(みのり)の別荘に、車で送っていった万里たちは、 嵐で別荘に閉じ込められてしまう。教授の留守を預かる五百棲(いおすみ)と、土砂崩れの連絡の ための電話を借りにきた刑事、怪しげな三人家族、ホテルのバス運転手まで加わった。

万里は家族連れの老人から、ライターを取り戻そうとしたはずみに、テーブルの角に頭を打ち 老人は死んでしまう。それをきっかけに、6人を殺してしまう・・・。だが、ベッドで死んでいる 園子は殺していない。殺人者・万里が推理をして犯人を突き止めようとする。

大量殺人者が展開する推理。とんでもない設定が、説得力を持つのは西澤さんの筆力でしょう。 細かな伏線の張り方も、最後にまとめあげてしまう辺り、なかなかです。

登場人物の姓名にこだわりがあるらしいのが、ほほえましくもあります。1作ごとに、約10人の 名前を考えるのも大変だと思うのですが。


「人格移転の殺人」

カリフォルニアまで追いかけた恋人に振られて失意の江利夫は、気晴らしに来たショッピング・ モールでふらりとバーガーショップに入った。その店を占領しているシェルターらしいものは、 奇妙に存在感があった。店主のボビイと話していると、いつもは暇なんだと言っていた店に 次々と客が入ってきた。英語学校に通うアヤとアラン。女優志願のジャクリーン。さらに3人。 狭い店で諍いが始まろうとしたとき、激しい地震が襲った。

落下する天井の瓦礫を避けるため、シェルターの鍵を開けて中に飛び込んだ。だがそこは、 人格交換装置だった。間に合わずに瓦礫の下で死んだアヤ以外の6人の、複数の人格交換 (マスカレード)が始まった。特別施設でドクター・アクロイドは、一人づつ人格が ずれていくことや、不規則に起きることを説明する。だが、翌日から殺人事件が起きる。

体と人格が一致しない人物の描写が、じつにおもしろいのです。キャラが立ち、それが入れ 替わるのですから。西澤さんは細部に至るまで伏線を張っていきながら、巧にすべての解明を しなければ終わらない作家なのですね。展開も、起伏のつけ方もうまく、そして文章の整合性も あります。おもしろい世界です。


「異邦人 fusion」

文学部の助教授・影二(じょうじ)は、年末の帰省便に乗り込んだ。到着した空港の様子が おかしかった。閑散として、目的地往きのバスもなかった。財布の中もほとんど空っぽだ。 硬貨を入れる公衆電話で実家にかけると、23年前に殺されて死んだ父が出た。

複雑な姉や父の関係とその友人、かつてのそれぞれの行動にどんな意味があったのか。影二は 自分探しにも似た経験をする。

23年後に作家になっている少女との、静かな推理展開が印象的です。途中で父殺しの犯人は 推測できるけれど、事件そのものの意味を深く考える姿勢が、好感度高いです。西澤さんの ほかの作品と違う雰囲気がありました。理論的にきっちりとさせなければ終わらないという点が いい方に働いた感じです。他の作品も、あるいはもっと面白いのがあるかも知れません。


「神のロジック 人間のマジック」

アメリカの荒野にあると思われる「学校(ファシリティ)」には、家族から隔離さ れたマモルを始め、6名の生徒と校長、給食係、寮長しかいない。
授業と実習と、テストをクリアしたらもらえるわずかなお小遣いで買うスナック菓 子が唯一の楽しみだった。

実習は事件と人物設定から、犯人と目的を当てるという課題だった。論理的に解く 訓練のようだったが、果たして英才教育なのか。誰にもわからない。

ファシリティには魔物が住んでいると、思われていた。新入生が来るとそいつが 動き出すという。そんな折、新入生が紹介されるが、翌日彼は逃走してしまう。

異常な密室ともいえる設定と、なんとか秘密を解き明かそうとする生徒たちの論理の 展開が楽しめます。最後は、これでいいの?という感じは否定できないのが残念です。 ルイス・サッカーも「穴」にも通じるおもしろさがあります。

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