テーマパークのシメール城の社長は、欧州の古城の領主エドガーと思い込み、自分を殺害した
犯人を突き止めてほしいという。大海常務から依頼を受けた名探偵・石動（いするぎ）は
助手のアントニオとともに、乗り込んでいった。
殺人現場は、13世紀のフランス。検証するすべてが、社長の記憶の中にある。石動たちも
扮装し、謎解きを始める。
実際はありえないだろうという設定を、エドガーの視点での記憶の再現と、観光コースの城とが
奇妙にシンクロして、成功しています。殊能さんは、やはりただ者ではないという感じがします。
うまいな、と思います。
作家・鮎川は水城優臣シリーズを出して地位を確立していたが、
実際の事件を書いてきたのだった。
ある事件で、鮎川と水城が鮮やかな推理を見せたことで傾倒した
旅館の女将・綾子から二人へ招待状が届いた。天狗塚のあるとこ
ろを見せたいと。
だが旅館で、殺人事件が起きる。神社の秘蔵の斧が凶器に使われ
た...。
今回は歴史上の人物と和歌が折り込まれ、味を出しています。作
家弁では謙遜していますが、なかなかの博識のようです。
少年の「ボク」の視点から見える世界の描写が、強烈な印象を受
けます。
ボクの世話をしてくれる、やさしいユキは、叱ったりしない。で
も、父さんは怖い。
ぼんやりと鏡を見ていると、脳の底から泡のように浮かび上がる
記憶の断片が、次第にはっきりしてくるのを感じていた。「二階
に上がって中庭に降りると死体がある」というボクの言葉に不快
感を見せる。
ユキの元を訪れた男が、ユキを追いつめていく。やめろ。ボクは
花びんで男の頭を殴った。ふいに記憶がよみがえる。それは１４
年前の事件だった...。
１４年前の事件と現在が交互に書かれ、進行していくスタイルも
おもしろい。これもお勧めです。心理描写がうまい作家です。
名探偵石動戯作（いするぎ）は助手のアントニオとともに、依頼
主・大生部（おおうべ）に会うために、西麻布に行った。指定時
間は夜の零時だった。
９世紀の高僧が唐から持ち帰った宝が、安蘭寺のどこかにあると
いう。住職と一緒に探索することに。
福岡の古いアパートで変死体が発見され、そのそばに大粒の黒い
数珠玉が置かれていたという。さらに、部屋中の指紋がきれいに
ふき取られていた。大生部との関連は...。
今回の小道具は、仏教の経典でしょう。わたしは理解できません
でしたが、雰囲気を作るのがうまいと思います。ミステリーとし
ては、ちょっと今までと比べると、物足りなくもありました。
ガン患者を治す「奇跡の泉」の取材を依頼されたフリーライター
天瀬は、カメラマンの町田、依頼者とともに洞戸村暮枝に向かっ
た。
奇妙な取材依頼者・石動戯作（いするぎ）とは何者なのか。有名
雑誌に載るのが嫌なのか、鍾乳洞の持ち主・羅堂陣一郎はなぜか
取材を断る。
その息子の真一は、特別な霜降り牛・美濃牛の飼育に情熱を傾け
ている。娘の窓音は茶髪の美少女だった。
取材を続けているある日、鍾乳洞の近くで牛の世話をしていた少
年・哲史が首のない無残な死体で発見される。
陣一郎の主宰する俳句の会ではもちろん、随所に俳句をちりばめ
られ、それらがきちんと意味を持っています。ゆったりとした展
開で読者をじらして見せたり、一気に核心に迫ったりと、楽しま
せてくれます。
厚さ３センチのノベルスは、バッグに重かったですが充分おもしろ
く、重さを忘れさせてくれました。構成に独特のおしゃれな感覚を
見せてくれます。
タイトルからはホラーかサイコかと思ったが、みごとに期待を裏
ぎってくれた作家です。構成も文章もしっかりしていて、ストー
リーもおもしろい。キレのいい展開も、結末も楽しめます。
「わたし」は魅力的な高校生・樽宮由紀子のあとをつけていた。
アルバイトという時間が自由になる立場を、うまく生かして。無
理をせず、パターンをつかむために、何度もつけていた。
そして「わたし」は土曜日になると繰り返す悪癖があった。自殺し
たくなるのだ。失敗するたびに、冷ややかに死ねない理由を分析し
てみせる＜医師＞との面談。
そうしているうちに、樽宮由紀子が「ハサミ男」の犠牲になって
しまう。そして「わたし」が死体の第一発見者に...。
きちんと張りめぐらされたしかけが、ところどころ見えてしまう
のだが、それでもおもしろい！のです。
いままでにない「わたし」の自殺の場面がなんとも言えず、おもし
ろい。（と言ってはいけないかも知れないが）＜医師＞との会話も
ユニークです。ひさしぶりの、おもしろい作家との出会いでした。