鯨統一郎

【金閣寺に密室 とんち一休さん】

室町幕府三代将軍足利義満は、美しい女を見るとそばに置かずに いられなかった。
実弟・満詮の妻に妾にあがるよう命じた。そのこころの内はいか ばかりか。猿楽の第一人者・世阿弥は義満のそばで、政治をじっと 見つめていた。

時の帝後小松帝は病弱でありその皇位継承者のひとり、一休を義満 は気がかりだった。だが、その義満が金閣寺最上層で首吊り死体で 発見される。一休に謎解きが依頼される...。

鯨さんのひさしぶりにまじめな(失礼)ミステリーが、おもしろ かったです。よく知られる一休さんのエピソードもうまく、全体 の仕掛けとして使われています。壺の蜜をなめる話、屏風の虎を 縛る話な ど。本格的に書けるのねと、見直しました。

【邪馬台国はどこですか?】

ブッダが悟りを開いたのはいつか?
邪馬台国はどこにあったか?
聖徳太子とは誰?
明智光秀の謀反の動機は何か?
明治維新はなぜ起きたのか?
イエス・キリストの奇蹟とは?

カウンター席で始まる歴史談義が次第に熱を帯びてくる。バーテン の松永と、三谷教授、助手の早乙女静香、在野の宮田が繰り広げる 一見むちゃくちゃな推理が、裏づけと論理の展開によって、新しい 真実へ迫る。
難しい歴史検証とかではなく、「小説」だからこそできるおもしろ さです。これは、なかなか着眼点がいい作品だと思います。

【隕石誘拐】

童話作家になろうという研二は、妻の稔美が4歳の息子・虹野を 叱咤激励して教育することに反対もできなかった。アルバイトの 身では発言力も弱い。
そんな時、稔美と虹野が誘拐された。警察に操作願いを出しても 取りあってもらえず、自力で探そうとする。
稔美が持っているホームページに秘密があるのではと、近所の児 玉が協力してくれる。童話作家の宮沢賢治の残した謎に、秘密が あるらしい...。

鯨という作家は、宮沢賢治を実によく研究し、星座や鉱石の謎を 解明していると思います。わたしが参加した、ある大学教授の「 宮沢賢治研究会」のゼミを思い出しました。天文学、地学、化学、 宗教のそれぞれの角度から、彼は語られます。この作品は、身の 代金を要求しない誘拐としてもおもしろいし、宮沢賢治の分析と そても興味がつきません。初の長編でした。

【九つの殺人】

日本酒のバーに毎週金曜日に集まる客たち。すいっと銘酒を飲みな がら、推理を働かせる桜川嬢の雰囲気が楽しい。今回はグリム童話 などと比べながらの、展開です。
ヘンゼルとグレーテル、赤ずきん、シンデレラ、白雪姫...。
短いストーリーなのに、登場人物が明確に浮かび上がる筆致はあざ やかです。

【千年記末古事記伝】

「まろ、ん?」は見開き漫画の源氏物語でしたが、この作品は、 ばかばかしいほどの単純さで、古事記の全体像を見せてくれます。 神々の人間くさい?行動が、国を作っていく...。

鯨さんは長編に疲れたときの、癒し的存在になりつつあります。

【なみだ研究所へようこそ!】

サイコセラピスト波田煌子の研究所で働くことになった、臨床心理 士・松本清は、波田によって、いままでの考え方を大きく転換しな くてはならなかった。クライアントとの無防備とも受け取れるやり 方で、波田は思いがけない治療をしていくのだった。

トラの夢を見る会社の部長、無意識に腹話術をしてしまう会社員、 さまざまな悩みを、軽快に推理していき、楽しめます。

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