加納朋子

【ささら さや】

ベビーカーに乗った幼いユウスケと、泣き虫で保護なしには生きていけないか弱い妻 のサヤを残し、事故で死んだ俺は魂になり漂っていた。サヤの危険を察したとき、寺の 和尚や駅員などに乗り移り、言葉を伝え救った。しかし、いつまでこうしていられる わけではない。

思いがけず残された小さな家に引っ越しをしたサヤは、銭湯や旅館の女将、近所に住 む人たちに助けられながらも、少しづつ強くなっていく。

加納さんの、こんなに善良で純粋な女性像に苦笑しながらも、描き切る実力には感心 します。読後感がいいので、つい手が出てしまうのですが。もしかしたら加納さんは 人間関係のどろどろさを充分知っていて、その上で作品を描いて見せているのかもし れないと思いました。であれば、なかなかしたたかな作品とも見えてきます。

【螺旋階段のアリス】

ハードでダークな読書が続いたせいか、ふと手にした加納さんはハーブティーの ような香りと、味わいでした。

新しく探偵事務所を開いた仁木順平のもとを、美少女・安梨沙(アリス)が訪れ 助手として働くことになった。最初の依頼人が来る。亡くなった夫の貸し金庫の鍵を 探してほしいという依頼だった。

二人で離婚・結婚を繰り返していたため、亡くなったときは離婚中だったという。 財産相続ができるのかどうか・・・。

仁木とアリスのコンビの波長が、なんとも言えないいい味があります。ちょっと 軽すぎるのは、読者の好みが別れるところでしょう。

【掌の中の小鳥】

学生時代にひそかに憧れていた容子から、僕の留守番電話に吹き込 まれていたメッセージ。「私、殺されたの」...。

読みはじめて気がつきました。6年前、新刊本で読んでいたことに。 5遍の短編が、次々に繰り広げる不思議なストーリー。そうそう、 こうだったと、思い出しました。不思議が不思議でなくなると、興 味は現在のわたしがどう感じるか、ですね。あきずに最後まで楽し んで読めました。
見える世界が1枚の紙ではなく、見方によってまったく別な色の紙 がその後ろに重なっている。ちょうど本のページをめくるように。

【沙羅は和子の名を呼ぶ】

10作の短編集です。日常という世界から、さりげなく入ってし まう不思議な間隙を、さらりと描いています。
写真を撮るのが好きな優は帰宅途中、自転車がパンクした。廃屋 になった病院の壁の落書き「タスケテ」という文字に誘われ、中 に足を踏み入れた...。『黒いベールの貴婦人』

熱帯魚の水槽がある喫茶店を訪れる少女...。『エンジェル・ムー ン』

もし別な女性と結婚していたら、どんな人生を送っていただろう。 結婚している誰もが考えることを、物語にしてしまった『沙羅..』

加納さんのほぼ完成したような世界が、みごとに繰り広げられて います。音や色、感触などを材料にして、こころの危うさを見せ てしまうのです。ただ、オルゴールの部屋にいるように、そこか ら一歩外に出てしまうと、消えてしまうような世界でもあるので す。そのはかなさが好きであれば、彼女の作品を次々読みたくな るでしょうね。

【ななつのこ】

都会に暮らしている短大生の駒子は、麦わら帽子をかぶった少年の 絵に惹かれて「ななつのこ」という本と出会った。少年の疑問を、 解決する<あやめさん>が魅力的で、駒子は作者の<佐伯綾乃>にファ ンレターを書く。街の中で見つけた見過ごされそうな事件の謎を、 解いてもらいたかったせいもある。

アスファルトの道路に点々と落ちている血。デパートの大きなビニー ル製の恐竜が、新宿の保育園の庭にいたこと、など。なにげない日 常の風景が次第に意味を持ってくる...。

不思議な人とのかかわりの中で、なにが大切なものなのかが見えて きます。こころが洗われるようなミステリーでした。

【魔法飛行】

手紙で近況報告をするように書いたら、物語になると言われて入江 駒子は書きはじめた。瀬尾さんからは、感想と答えが返ってくる。
幾つもの名前を持つ女子学生。交通事故現場の道路わきの絵...。 4つの物語が、ラストへと集約されていく。

そう、不思議な魔法を見ているような、おもしろさがあります。

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