浦賀和宏

「彼女のため生まれた」

母親を高校の同級生・渡部に殺されたライターの銀次郎。犯行後自殺した渡部の遺書には、高校の頃、銀次郎が原因で自殺した女生徒の恨みを晴らすためと書かれていた。なぜ母は殺されたのか。母の死の真相と身に覚えのない汚名を晴らすため、奔走する銀次郎を次々と襲う衝撃の真実。

渡部の母と姉の出現に振り回され、15年前の同級生から思わぬ情報を得るが、そのまた裏を知るライターとしての銀次郎です。遺書を競合出版社に売ろうとする動きで、身体も危うくなるなど、ひとつ開けると次の難関が待っている連続でした。どんでん返しの連続に、一気に引き込まれて読み終えました。最終の目的、狙いは驚くべきものでした。ひさびさの浦賀さんの作品です。こういう重い路線を書いていたとは気付きませんでした。

【松浦純菜の静かな世界】

連続女子高生殺人事件が発生していた。それぞれの死体からは、腕と足が1パーツづつ 切り取られていた。事故で腕に大怪我を負い、療養から戻った松浦純菜を出迎えてくれた 級友たちの中に、貴子はいなかった。ジャンケンで勝つことができる、たった一人の 相手だった。

新聞記事で知った剛士は、銃撃事件に巻き込まれ、妹は死んで剛士は奇跡的に助かっていた。 純菜は剛士には「力」があるのではないかと、彼に近づくことにした。そんな時、純菜たちの 耳に入ってきたのは、とある団地の公園で、桜の下には死体があるという奇妙な噂が広がって いるというものだ。

やっぱり浦賀さんの特有の、強引な設定があります。描く視点も、かき集めたジグソーパズルの パーツのようで、ここも少々無理があります。ただ、不思議なことに読むのがおもしろい というのは、何が魅力なのでしょうね。

【上手なミステリの書き方教えます】

謎の男に銃で撃たれて奇跡的に助かった八木剛士だったが、妹は意識不明の重体のままだった。 高校では皆から嫌われ、いじめの対象になっている。唯一学校の違う、純菜だけが言葉を交わせる 相手だった。だが、その純菜もいじめの連中によって、汚されてしまう。自己嫌悪に陥り、ひとり 部屋にこもり、プラモ作りに熱中し妄想に逃げ込む。作中内作。いくつもの入れ子細工。

「ミステリの書き方」も登場するのですが、それ以上にイタいと思うのは、少年から青年に変わる時期の、 ひりひり感です。「この恨みはらさでおくべきか」リストに数百人の名前が挙げられ、妄想を小説に 託し、しかも命を狙われる存在。とんでもない設定なのに、引きずられて読み終わってしまうのは、 いじめられる少年の、決して表に出ない叫びを覗いてしまったという意識かも知れません。

【八木剛士 史上最大の事件】

あいかわらず、いじめ続けられている剛士は、ささやかな抵抗をしたことから、部屋で純菜と二人きりで 話す機会に恵まれた。しかも自分を好きだと言ってくれた。家に送り届ける途中で、不良たちに いたぶられる。それにも関わらず、純菜は剛士を庇ってくれた。有頂天になり妹の病院を訪れると、 金髪の暗殺者が銃を持って現れた。「力」により、生き延びる奇跡は起こるのか。

剛士への呪詛の言葉が、随所に織り込まれ、次第にストレートになっていきます。不良たちの エスカレートしていく暴力にもはらはらし、このシリーズはどこに着地するのだろうと思ってしまいます。 難をくぐり抜けることで、静かな自信を持っていく辺りにかすかな希望が見えます。

【透明人間】

少女・理美の日記で始まる物語の世界です。真夜中に透明人間を見た理美。 野球帽、ジャンパー、サングラス、ほうたいでぐるぐる巻きにされた顔。お父 さんの書斎で消えた、透明人間。

雪のある日、お父さんの後を追って神社の石段を上がった。雪の上に残る足跡は ひとつだけだった。お父さんが倒れていた。理美はお父さんを抱きしめたまま、気を 失った。

10年後、孤独に絶望し幾度も自殺を繰り返す理美を、飯島君は救おうとしていた。

浦賀さんの3作の中ではケレンミの少ない作品です。丁寧な描写のひとつひとつが、 ラストへと収斂されていきます。大人になり切れていない女性のこころがしっかり 描かれているのがいいですね。そしてぱっとライトを当ててみせるラストが、少しの 希望と救いを残してくれました。

【記憶の果て】

人工知能を研究していた父が、唐突に自殺した。息子の直樹に残さ れたものは、書斎のコンピュータだった。電源を入れると、裕子と 名乗る女性のメッセージが表れる。「会話」が進むに連れ、彼女は 意識がある存在なのではないかと思っていく。
高校の仲間たちと調べていくうちに、裕子は実在したことを知る。 だが、さらに迫っていくととんでもない事実が・・・。

新しい作家です。論理の展開は丁寧すぎるくらい、きちんとしてい ます。全体の中で重要度の高いものと、捨てていいものが混在して いる感じが惜しいです。本田孝好さんをグレードアップした印象が 残ります。一人称で書くと、どうしても視野が狭くなるようです。 でも、期待の持てる新人と言えそうです。

【浦賀和宏殺人事件】

装丁が綴じ本。ハサミを入れるとき、期待が嫌でも高まります。 エピローグ(後編)から始まり、エピローグ(前編)で終わるという 意表を突いた構成です。

講談社の編集担当者・本城久美子は、浦賀和宏に作品を書くように 頼み込んでいた。どんなおそろしい事件に巻き込まれるかも知らず。
唯一の浦賀和宏の話し相手は、柳沢だった。だが、柳沢も関知していな いことが、浦賀和宏の頭の中を駆けめぐっていたのだ。

いやー、こんなことしていいのか?と笑ってしまった本でした。基本は しっかり押さえながら、ここまではちゃめちゃなことを書く作家は、初 めてです。中間の「YMO」にも、苦笑せずにいられません。あの注釈が 書きたかったための作品?だったのではないかと。
とにかく、手放しで楽しめます。

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