小野不由美

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作品名出版社
悪夢の棲む家 上・下講談社X文庫
魔性の子新潮文庫
黒祠の島祥伝社ノン・ノベル
屍鬼(全5巻)新潮文庫
月の影影の海上・下(十二国記)講談社文庫
風の海迷宮の岸(十二国記)講談社文庫
東の海神西の滄海(十二国記)講談社文庫
風の万里黎明の空上・下(十二国記)講談社文庫
図南の翼(十二国記)講談社文庫
黄昏の岸暁の天(十二国記)講談社文庫
華胥の幽夢(十二国記)講談社文庫
東亰異聞新潮文庫

【悪夢の棲む家 上・下】

母の翠と娘の礼子は、亡くなった父の念願のマイホームを手に入 れた。
だがその家は、どこかがおかしかった。窓が鏡でふさがれ、廊下 にも鏡が下げられていた。そして母が口走る。「早く出て。悪い ことが起こらないうちに」
え?礼子は首をかしげた。

頻繁にブレーカーが落ちる。電気製品が故障する。電話に雑音が。 雨漏り。腐臭がする。誰かが覗いている。次々と奇妙なことがエ スカレートしていく。

知人の紹介で、警察官の広田と「渋谷サイキックリサ−チ」のナ ルたちが、家に来て調べてくれることになった。

サイコホラーだが、重くならないのは小野不由美さんの特徴だと 思います。今回のはx文庫読者対象なので、軽いタッチです。そ れでいながら、おもしろく読めました。仕掛けも手を抜いていな いのは、さすがです。
夏向けに本屋さんの店頭には、たくさんの ホラー、ミステリーなどが並んでいます。その中では、光ってい ました。


【魔性の子】

教生実習の広瀬は、教室の中で孤立している生徒高里に、奇妙な共 感を覚える。ここにいる自分は、ほかの人間から浮いている。住む 世界が違う。・・けれど、高里の周囲で起きる悲惨な事件が大きく なるにつれ、かばいきれなくなっていく...。

広瀬や高里のこころの中の哀しみが、伝わってきます。ようやく、 というか、ついに小野不由美と出会ってしまいました。この感性は たぶん、後を引くでしょう。


【東亰異聞】

江戸から東亰へと名前を変えた夜の街を、「人魂売り」や「火炎魔 人」、「首遣い」、「闇御前」などが現れ、人のこころを騒がせる。

髪は吹き輪に花櫛、金糸銀糸をあつらえた深紅の打ち掛けを着た「 火炎魔人」が、鈎爪を降りおろす...。新聞記者の平河は、事件を追 ううちに鷹司公爵家の、お家騒動にぶつかる。

語り口が絶妙です。おどろおどろしい夜の闇の怖さの中の、絢爛と した艶やかな世界に引き込まれていきます。時代劇とかだめなわた しですが、この作品はすごいと思いました。登場人物の心理が、ご まかさずきちんと描かれています。


【黒祠の島】

ノンフィクション作家葛木志保から、式部は部屋のカギを預った。 そのまま帰らない葛木志保を探すために、式部はその「島」を訪れ た。口を堅く閉ざす島民から、粘り強く足跡をたぐっていく。そし て嵐の夜、神社の樹に無惨な死体が張り付けられる...。

因習に囚われた島の、連続殺人事件をひとりづづ丹念に証言を聞き 出し、式部がたどりついた先は...。

死体の無惨さと対照的な、地味な捜査で物語は構成されています。そ れでいて、最後まで引き付けてしまう力量に驚かされました。全体を 貫く、ポリシーの確かさと、説得力のある文章。驚かされました。もっ と早く出会いたかった作家です。世界が違うかなと、食わず嫌いにし てきたのが惜しい。

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【屍鬼】(全5巻)

三つの尾根に囲まれた小さな村・外場村は、鍵をかける必要のない位 人間関係も濃く、変化に乏しいところだった。

猛暑の夏のある日、山深い集落・山入で3人の腐乱死体が発見される。 事件のすべては、そこから始まった。 兼正の屋敷に真夜中に引っ越しをしてきた不思議な家族が、村中の視 線を浴びて大騒ぎになる。そんな中、ふきと二人暮しの秀司が、急死 した。そして次々に起きる突然死...。

外場村の医師の敏夫、寺の若御院と呼ばれる静信は、ひそかに調査を 開始した。どこにでもある村。ゆったりとした時間の流れの中で繰り 広げられる事件に人の意識が追いついていかない。そんな状況を的確 に、しかも一人一人のこころの奥深くまで描いていく。それぞれの死 にひとつづつのドラマがある。

「夏以来、一体どれだけの人間が死んだ?だのに何もせず、じっとし ていろと言うのか」医師の敏夫は、寺の静信を問いつめる。
村の中でも、何かがおかしいと考えるものたちが出始める。高校生の 夏野と昭とかおりは、土葬の習慣の村の墓場を掘り返してみる。友人 の恵の棺は、空だった。やはり、よみがえり...屍鬼なのか。

寺も病院も、襲いかかる敵から外されたわけではなかった。家族や勤 務していた者が死に、辞めていく。死者の体には、蚊に噛まれたよう な痕がある。兼正の屋敷が原因ではないのか。さまざまな憶測が飛び 交う。

その兼正の娘・沙子は深夜、静信の書斎を訪れ、書きかけの小説の登 場人物に興味を示す。村には新しい葬儀社ができ、診療所もできる。 役場は夜にならないと業務が始まらない異常事態になる。 深夜病院では敏夫が、秘かな実験を行った...。そして、「虫送り」の 行事のさなか、驚愕の事件が起きる。

小野不由美さんの静かな文章は、不思議な現実感をもたらし、一層の 恐怖を呼ぶのだと思う。ホラーにありがちな、ぐちゃぐちゃ、どろど ろ、した表現がない。なおも科学者であろうとする医師の敏夫の行為 が、恐ろしく、残虐に見える。兼正の娘・沙子たちが『人間的』に思 えてきた時、読者のわたしたちは小野不由美さんの術の中に、落ちて しまっているのだ。

スティーヴン・キングを思わせる大作。読みはじめたら、やめられな い程のおもしろさです。こんな作品とは、なかなか出合えないと思う。

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【東の海神西の滄海】(十二国記)

蓬莱国で貧しさのために捨てられた記憶を持つ延麒・六太は延国の 王・尚隆とともに、国の復興に力を注いでいた。

ある日、幼い頃に会った更夜が妖魔と一緒に現れる。だが誘われる ままに、元州の幹由の人質に取られてしまう。漉水の治水工事のた めという名目での反逆が始まる...。

六太と尚隆という、いい意味での「いいかげん」さを持つキャラク ターが、実はすごい力を持っているという書き方が、おもしろい。 人臣のこころが、どんなふうに動くのか。興味がつきません。


【風の海迷宮の岸】(十二国記)

生まれる前に虚海を超えて流され、蓬莱国で10年間人間として育っ た泰麒は、神獣だった。国に戻った彼は天啓を受け王を選ぶという 大役が待ち受けていた。だが、授けられているはずの転変の術も使 えず、王も選べず苦悩の日が続く...。

泰麒のこころの動きが実にこまやかに描かれています。難しい漢字 がある、特異な世界の設定にもかかわらず、文章も読みやすく、ス ピード感があります。おもしろい!次々と、シリーズを読んでます。


【月の影影の海上・下】(十二国記)

母親のいうことに従順な、どこにでもいる高校生の陽子が不思議な 夢を見た。

そして学校の中で異変が起きる。突然窓ガラスが割れ、怪鳥に襲わ れる。謎のケイキという男にさらわれるようにして、陽子は宙をか け上った。たどりついた見知らぬ国は「巧国」。

SFは苦手だと思っていたわたしが、違和感がなく物語を受け入れて いた。舞台は違うが、そこには確かな人間を見つめる目があり、深 い思考がありました。とても人間くさい。現在という舞台では書け ない、壮大なドラマです。このシリーズをしばらく読むことなると 思います。


【風の万里黎明の空上・下】(十二国記)

慶の国の王となった陽子は、国を営むことがどんなことなのか悩ん でいた。陽子が迷うと民が迷う言われ、民の実情とこころをつかも うと密かに街に出た。里家の遠甫に教えを乞うことになる。

厳しい冬の最中、かつての峯王である父と母が目の前で殺害された 祥瓊(しょうけい)は奴隷のように使われて、別の里家でかろうじ て生きていた。

そして蓬莱国から流されてきた鈴は、言葉もわからない不遇を嘆い ていた。三人の少女は、運命的な出会いをする。

果敢に運命を切り開く戦いが始まる、壮大な物語がぐんぐん迫って きます。飽きさせず、起伏にとんだ展開がとにかくおもしろいです。

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【図南の翼】(十二国記)

恭の国は王が亡くなってから27年。次第に荒れていく国をなんと かしなければと、気の強い豪商の娘珠晶は、自ら王になるため蓬山 に向かう。途中出会った頑丘を家来に雇い、妖魔が襲いかかる中を 突き進み、強運をもつ珠晶はさまざまな困難を乗り越えていく...。

ただ単に、気の強い娘だったものが苦労を通し、人のこころの機微 を知っていく形で物語が進みます。ふと、いま生きているわたした ちが見失ってきたものを、思い出させてくれます。人間の原形のよ うなものを見ているようです。小野不由美の物語の基本にあるもの。 そこに強く惹かれます。


【黄昏の岸暁の天】(十二国記)

戴の国王・驍宗は国の復興に燃えていた。反乱を鎮圧するために、 文州に出かけていた。

半年前、その王を選ぶという大役を果たしたのは、泰麒である。だ が、まだ幼い彼は無事に戻ることを祈るしかない。訃報を知らせに きた男に油断していた泰麒に、凶刃が振りおろされる...。 王の死と、行方の知れない泰麒に代わって立った王の圧政が始まる。

「東の海神西の滄海」に登場した六太、景王・陽子、そして十二 国記シリーズ外伝の「魔性の子」の泰麒が登場する。ああ、こうい うつながりだったのかと、改めて壮大なストーリーなのだと思いま した。ジグソーパズルの一部分がカチリとはまった感じで、絵全体 を想像して楽しめます。


【華胥の幽夢】(十二国記)

戴の国のまだ幼く、何をしていいかわからずにいる泰麒。景王・ 陽子。芳国王へ謀反を起こした月渓。利広。楽俊。延王尚隆。供王 珠晶などなど。いままでの登場人物の、苦悩と夢がクロスして語ら れます。

600年続いている王朝もあるという。新しい王朝が生まれて、最 初の節目が10年。これを超えると30〜50年は持つ。ここがま た、節目となり、次の山は300年。危険な節目を超えられずに、 倒壊する王朝が多い。天意とは何か。

いままでの物語を、かなりまとめてくれた感じです。文庫化された ものはここまでなので、しばらく小野不由美さんと離れます。次の 文庫化が待ち遠しいです。

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