恩田陸

【上と外1〜6】

【 上と外(1)素晴らしき休日 】
【 上と外(2)緑の底上 】
【 上と外(3)神々と死者の迷宮上 】
【 上と外(4)神々と使者の迷宮下 】
【 上と外(5)楔が抜ける時 】
【 上と外(6)みんなの国 】

恩田陸の書く少年像は抜群です。
文章のうまさと独特の雰囲気に引き込まれて読みました。あっさ りと都合よく進み過ぎる展開もありますが、恩田陸の中でも、ス ケールの広がりのあるおもしろいものでした。

両親の離婚で別れて暮らす元家族が年に一度、集う夏休み。
考古学者の父のいる中央アメリカを舞台に密林と遺跡。四人を巻 き込むものは...。ヘリから密林へ放り出された中学生の「練」と 妹の「千華子」は、密林を彷徨っていく。

千華子を人質に取られ、練は危険なマヤの儀式への参加を強い られる。少年たちが生き残りを賭けて争う過酷なレース。恐怖の 中で時間は過ぎていく。次第に追い詰められる練...。
危険なマヤの儀式を切り抜ける練。閉じ込められていた部屋から 逃げ出す妹の千華子。

練と千華子は、出会えたのもつかの間、今度は火山噴火と大地震に 巻き込まれ、再び離ればなれになる。襲いかかる溶岩流から逃 れる必死の脱出劇。

ラストはわかっていてもハラハラさせられます。アニメ映画にした らおもしろいだろうなという作品に仕上がった。危険なマヤの儀式 のリーダー、ニコの終わりの章の姿が印象に残ります。

【図書室の海】

短編集です。創作の過程のきらきらひかる断片を、捨てるにしの びなく、でも長篇に仕立てるには、まだなにかが足りず、短編に することで、輝いたように思います。

幼い頃の記憶の不確かさ。印象に残る叔母さんの死。断片を大人 になってから考えると、違う意味が見えてくる。知らずにいた方 が、よかっただろうか...。

あるいは、兵士伝説を追う。恐怖にとらえられたとき、胸に下げ た『骨』をかじるという...。

恩田さんの、文章のリズムが好きです。


【PUZZLE パズル】

廃虚の無人島という、隔絶された「密室」で発見された餓死死体。 高層アパート屋上に墜落したと見える死体。映画館に座っている 感電死体。狭い行動範囲で何が起きうるのか、推理していく関根 春と検事の二人。

この短い中に書ききるのは、やはりちょっと無理があるかも知れ ません。あっけなくネタがばれてしまうことと、心理を深く描けな い。さらっと読むにはいいですね。

【MAZE めいず】

小説「推理」に連載された推理ものです。
舞台設定がおもしろい。アジアの果てにあるその地に白くて 四角い建物がある。天井がなく、高い壁が迷路上に続いている奇 妙なその中に、一歩は入り込むと2度と出てこられない。

何百年も前からの伝説。調査を依頼された満は、迷路の秘密に迫ってい く。最後はちょっと、え?こんな結末?という感じは拭いきれな いが、結構楽しめた。

【ライオンハート】

「FROME.TOE.WIHLOVE」という、優雅な飾り文字の縫い取りが 入った白いレースのハンカチーフ。
あなたに会えてよかった。会った瞬間に、世界が金色に弾けるよ うな喜びを覚えるの。でもそれはほんの一瞬の時間。すぐに引き 裂かれてしまう。そして次に会う瞬間を待ち続ける。そう、幾度 も幾度も会っている、わたしたちは...。

読者は、時間の流れを不思議な感覚で飛んでいく。捉えようのな い世界に。恩田の作品の新しい試みかもしれない。

【ドミノ】

立ち読みを得意とするわたしは、この連載はずっと買わずに読んで しまいました。
爆発物の入った羊羹の紙袋をめぐり、次々に巻き込まれていく人 物たち。まさに、タイトルの「ドミノ」倒しに似ている。

別れた恋人たち。オーディションのライバルの少女たち。支店か ら本社に書類を届ける社員たち。振り回される警官たち。取り巻 く都会の群集。複数の人物のストーリーを展開させ、最後にはみ んな関係していく。

「ぴざーや」のバイクが都会を暴走するシーンが、鮮やか。
アイドルを目指す二人の少女が人質になる。地下鉄のアナウンス 室に駆け込んだ男は、マイクを掴み、失意の彼女に思いのたけを ぶつける。
こういう展開を見ても分かるように、恩田陸としては 珍しいコミック漫画の世界です。それでいて、飽きさせないとこ ろはさすが。軽いタッチのコメディでした。

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