石田衣良

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作品名出版社
ブルータワー徳間書店
電子の星 池袋ウエストゲートパーク lV文春文庫
1ポンドの悲しみ集英社
LAST ラスト講談社
赤黒 ルージュ・ルノワール 池袋ウエストゲートパーク 外伝文春文庫
骨音 池袋ウエストゲートパーク lll文春文庫
4TEEN フォーティーン新潮社
池袋ウエストゲートパーク文春文庫
少年計数機 池袋ウエストゲートパーク II文春文庫
うつくしい子ども文春文庫
スローグッドバイ集英社
波のうえの魔術師文芸春秋社
エンジェル新潮文庫
娼年集英社

【ブルータワー】

末期がんに冒された瀬野周司は、超高層マンション・新宿ホワイトタワーの55階で 車いすに座ったまま、死を待っていた。見舞いにきた部下の荻原、利奈たちを華やかな 笑顔で迎える妻・美紀が、荻原と浮気をしていることを、周司は知っていた。

痛みがひどくなると、周司は意識が飛ぶようになる。そして決まって見るのは、200年 後の世界の夢だった。高さ2,000メートルの「青の塔」三十人委員会の長、セノ・シューと 呼ばれた。腕につけたクロームバンドから出たライブリアンのココが、すべての知識や情報を もたらしてくれた。

だが塔の外は、かつて世界戦争で撒かれた黄魔というウイルスで満ち、生物は絶滅したという。 かろうじて生きる空間として、いくつかの塔があるのだった。その塔も権力争いがあり、下層の 人々の反乱や抗争が絶え間なかった。

舞台は新宿。時間が現在と200年前とを行き来します。石田さんは、ファンタジーという 新しい世界を、見せてくれました。9.11を意識したというのも、中近東の戦争を感じさせるのも うなずけます。絶望的な世界の中で、生きる力をどう手にするのか。つい電車を乗り越しそうに なるおもしろさは、さすがです。確かな希望を見せてくれ、読後感がいいです。


【電子の星 池袋ウエストゲートパーク lV】

池袋の新たなストーリー4編です。過当競争のラーメン店の話。歩道で起きた 息子の殺人事件の情報を追う父の話。アジア系の少年を風俗店から救い出す話。 そしてメインが「電子の星」。

ネットでばらまかれるブラックな写真。専門学校で勉強をし、アルバイトをしている 友人キイチを探してほしいと、テルが訴えた。家族に300万円を消えたキイチ。 追っていたはずのマコトは、いつのまにか舞台に立たされてしまった・・・。

インパクトのある題材を、また石田さんは提供してくれました。小説に救いはある けれど救われない世の中を、しっかりした視点で描いています。


【1ポンドの悲しみ】

受賞後の新作が待たれるのですが、まだのようです。「スローグッドバイ」に続く ラブストーリーです。軽やかに、アフタヌーンティーを味わうような印象です。

ごく普通の暮らしの男女が繰り広げる、恋の微かな甘ったるさ。語り口のうまさと 切れのよさはあいかわらずです。しかし、これは石田さんじゃなくても書けるのでは ないでしょうか。


【LAST ラスト】

「LAST RIDE」から「LAST BATTLE」まで7編の短編集です。全編を通して、 おぼろに見えてくるものがあります。その深さに、しばし息を飲みました。

小さな印刷工場が行き詰まった福本修二は、「街金」からも借金をしていた。妻と 娘との暮らしは、崩壊しようとしていた。鈴木という大人しい老人の取りたて屋に 連れて行かれた先は、まさに板一枚下は地獄という現実だった。「家族を売るか、自分を売るか」二つしかなかった。他の選択はない。「LAST RIDE」

直木賞受賞によって、何も変わることはないという石田さんの矜持を感じさせる 歯ごたえの作品でした。それにしても、いまの社会の仕組み、状況、どうにかなら ないものなのでしょうか。と、ついため息が出ます。


【骨音 池袋ウエストゲートパークlll】

こちらは、「池袋ウエストゲートパークlll」です。池袋の果物屋の店先で、マコトは カツシンと名乗る男から連続ホームレス襲撃事件の探偵を依頼される。

15件のうち4件は、薬を嗅がされ骨を折られていた。池袋のキングのタカシの力を 借りて、犯人を追っていく。

ライブハウス・マトリクスで、マコトたちはSINというボーカルと、ミキサーの スライの作るライブに衝撃を受ける。

「それは潜水艦映画で魚雷が炸裂する音に似ていた。・・手でつかめそうな音。・・ 音が聞こえるのではなく、空気が揺れるのを身体で感じた瞬間、耳と耳のまんなかで 音のカタチが鮮やかに生まれるのだ」

引用が長いですが、音楽好きな人ならわかる表現のうまさです。石田さん。音楽も わかるのねと、にんまりしました。そして、音に見せられた人間を描くことが実に うまいのです。


【赤黒 ルージュ・ルノワール 池袋ウエストゲートパーク外伝】

博打の借金に追いかけられた小峰は、1億4千万円のカジノ売上金強奪に加わった。 1時間で1,000万円の仕事と誘われて。

うまくいった。店長の狂言どおりの筋書きだ。だが、カジノでの知人・村瀬と、銃 撃役の鈴木と見張り役の坂田の4人で金を分ける時鈴木が豹変し、村瀬を撃ちすべ てを奪って逃げた。

盗まれたカジノは、羽沢組の幹部氷高の店だった。小峰たちは残りの人生を、総額の 借金のかたに取られてしまう。黒幕を探し出し、金を回収するから棒引きにしてくれと 小峰は言葉にしてしまう。

舞台は池袋ですが、なかなかハードでした。外伝とはありますが、別物の作品だと思 います。監視役「サル」と気持ちを交わしながら、黒幕を追っていくあたりが石田さん らしい点でしょう。ちょっとは希望がある・・・。最後のルーレットの場面が光ります。


【4TEEN フォーティーン】

ウェルナー症候群という急速に年老いていくナオトの、入院見舞いに訪れた テツローとダイとジュンは、とびっきりの誕生日祝いを贈ろうと計画を練る。
なけなしのお金を出し合い3人が選んだのは、リカという女の子だった。
「びっくりプレゼント」

東京湾代華火大会が近い頃、ガンセンターから失踪した62歳の患者と3人は 出会った。
街中に張り出されたポスターの人だった。家族が心配していると言っても頑なに 戻ろうとしなかった。だた次第に衰弱していくのを放っておいていいのだろうか。
「大華火の夜に」

少年たちのこころの、動きの捉え方が新鮮でした。短編ですが、凝縮された内容 です。せつないような、やりきれないような、都会の人間の、明日には消えてしまう やさしさが好きです。


【池袋ウエストゲートパーク】

母親の果物屋のアルバイトをしているマコトは、池袋西口公園(ウエストゲート パーク)で時間を過ごしていた。

連続女子高生絞殺未遂事件(ストラングラー)が話題になった頃、知り合いの リカが殺された。ヒカルとマサとシュン。マコトたちはリカのために、自分たち ができることを考える。

ウリをしていた噂もあるリカが一緒にいた男の似顔絵を、シュンが描いた。池袋 のギャングボーイズを束ねているタカシに、マコトは協力を依頼し、数百人の ガードシステムを動かした・・・。

夜の池袋のひとつの顔を、見事に描き出してくれました、石田さん。おもしろいです。 日本にもこういう描き方ができる作家がいたことに、感激です。切り口も、構成も 文句なしです。
引き続き、「池袋ウエストゲートパーク」を読んでいます。引き込まれてしまい ます。


【少年計数機 池袋ウエストゲートパーク II】

マコトが出会った少年・ヒロキは、常に計数機で世界を数えていた。
店のメニューの数、全部頼んだ場合の値段。歩数。すれ違う人の数。あらゆる ものを数える。ヒロキの母・芸能人のシャロン吉村は、遊んでやってくれと言う。 だが父親は、池袋の風俗街で悪名の高い大会社社長だった。

年末も近いきりきりとした寒い日、誘拐されたヒロキを探してくれとシャロン 吉村はマコトに依頼する。だが誘拐したのは兄のエリトだと。ほかの組に利用 されないようにしてほしいのだという。

またトラブルに巻き込まれていくマコト...。石田ワールドの始まりです。

石田さんの言葉感覚が非常にいい。生きている言葉で、埋められていながら嫌味に なっていません。人物がくっきりと描かれています。特に印象的なのは、「目」の 描写です。

ハッカーのゼロワン。『ものすごく淡い灰色ガラスを一メートルも積み上げたような目。どこまでも済んでいて見るほうが不安になる湖みたいだ。第二次大戦中遊軍の捕虜を救うため、収容所で身代わりになって死んだという牧師はきっとこんな目をしていたんじゃないだろうか。恐ろしく宗教的な情報屋』

肉体労働者風のジジイ。『ジジイは感情の読めない目で見下ろしてきた。哀願しよ うとも、気に入られようともしない目。長いあいだ川底で磨かれ、角を落とした小 石をはめこんだような目だった。一点の光を秘めている』

瞬時に人の本質を見抜こうとする視線と、久しぶりに会った気がします。お勧めの 作家です。


【うつくしい子ども】

ニュータウンで9歳の少女が殺され、子どもたちの遊び場になっている奥の山で 死体が発見された。ジャガイモのあだ名のぼく・三村は、友人たちと「夜の王子」 の仕業だろうかと噂をした。

父は会社の研究員で毎日が遅い。母と妹のミズハ、13歳の弟のカズシの3人で夕食を 取る。どこにでもある家庭の姿だった。

朝風新聞の山崎は事件を記事にし、ほかの大勢の報道陣が押し寄せる中、犯罪被 害者や周辺の取材に当たっていた。

事件から10日あまり、5人家族のいつもの朝食の時玄関のチャイムが鳴った。 弟のカズシが任意同行された・・・。

殺人犯の家族の崩壊。学校でのいじめ。徹底的にマスコミに叩かれながら、弟が なぜそんなことをしたのか、追っていくジャガ。あの学校には気持ちが悪いことが あるという、はるき。学級委員の長沢。3人は「夜の王子」を見つけようと・・・。

「ぼく」と記者・山崎の二人の視点で描かれています。感情に溺れず、けれど 14歳のジャガの、ひたむきな姿勢が胸を打ちます。結末に多少の不満は残るが いい作品だと思います。
また一人、いい書き手と出会いました。

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【スローグッドバイ】

ネット上の仮想喫茶店パラダイスの談話室で、オスカーとアヒルの子が出会った。
自分は醜いと劣等感に捕われてるアヒルの子に感情移入したぼく・オスカーは、オフ会で 現実に会うことになる。・・・「Yoo look good to me」

10編の短編という初めての作品です。石田さんの世界に浸っていたくて、毎日少しづつ 夜眠る前に読みました。ひたひたと、おし寄せてくる感情を胸にとどめるのに苦労しま した。涙腺が緩みそうになるのです。

決して泣かせる意図はないのです。わたしのこころの中の、琴線に触れるものがあるので しょう。


【波のうえの魔術師】

パチンコで暮らしている就職浪人の則道は、小塚老人にアルバイトの話を持ちか けられる。老人の秘書をしないかと。

するりと株にハマりこんでいく則道の前に、別世界が開けていった。まつば銀行を ターゲットに、落とし込むための綿密な作戦が繰り広げられる。

幸田真音さんとはまた別な、「相場師」という名がふさわしい、きわどいやり方に 引き込まれてしまいました。そして、表面は人間の欲のように見える力の根源にある こころの奥を見せてくれました。

すっかり石田ワールド、ことばの魅力に虜になっています。ここまで書ける作家と 出会えると、うれしいです。


【エンジェル】

青年実業家・純一は、殺され幽霊となってよみがえった。だが、死の直前2年の 記憶が全く失われていた。
ゲームソフトの制作に投資をしていた会社「エンジェルファンド」は、純一が 父から捨てられたときに作ったものだった。それが映画製作に莫大な投資をして いた時点に、立ち戻ったのだ。

美しい女優の文緒は妊娠していた。彼女との関係はどんなものだったのか。なん とか接触したいと願ううち、会話をする力とわずかな姿を見せる力を修得する。

幽霊の視点での展開は、意外に現実以上にリアルです。名誉とお金を巡る人間関 係が、おもしろいです。


【娼年】

大学生のリョウは、バーテンダーのバイトをしていて御堂静香と出会ってしまっ た。「あなたのセックスに値段をつけてあげる」という。

誘われるまま彼女のマンションに行くと、咲良に紹介され、テストが始まった。 会員制クラブの男娼としての。
どんな女性をも受け入れてしまうリョウは、次第にその仕事にのめり込んでいく。

御堂静香や、リョウの母親の記憶の隠された部分まで、さらりと光を当ててしまう 石田さん。200ページ足らずの中に、濃厚な世界を描いてくれました。後味の さわやかさは、なぜだろうと考えました。
人物を見抜いてしまう視線と、スタンスの取り方が心地よいのだと思います。 のめり込みすぎず、突き放すことなく、こころのひだを丁寧にみせてくれるからで しょう。

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