今邑彩

【盗まれて】

「ゴースト・ライター」「時効」など8編の短編集です。
作家の美川なおみは、夫の向井千次の最期の「死んでもきみのそば にいる。幽霊になって小説を書き続ける」という言葉を信じて待っ ていた。なぜなら、なおみは自分では書かず、千次の小説を発表し ていたのだから。
3カ月が過ぎ編集者からの締め切りが言い渡されていた。追いつめ られていた。その時、女の声で電話が入った。「ぼくだよ。小説が できたんだ」ほんとうに幽霊になったのだろうか・・・。

切れ味のいい短編だと思います。乃南アサさんほどには内面に迫っ てはいかないけれど、題材も着眼点もおもしろいです。こころがふ と踏み出した先に、ぽっかりと空いている落とし穴の怖さがいいで す。そして、それもまた人間よと、肯定しているのが救いです。長 編も読んでみたい作家です。

【よもつひらさか】

10年も続いてきた、少し奇妙なペンフレンドの彼女からの手紙。 <あなたの近くの公園で起きたばらばら殺人事件を、忘れてしまい なさい。復縁を迫っていたご主人だなんてことは>
わたしは、彼女が犯人なのではないか、警察に届けようかと悩む...。 「見知らぬあなた」
死を間際にした父に花嫁姿を見せてやりたいという真由子に、押し きられるようにして結婚した辰彦だった。しかし、真由子の友人・ 妙美と浮気していたのが本気になってしまったせいだった。真由子 は、あんがいあっさりと離婚を承知してくれた。
しかし、財産を分ける段になると、両方で出費して買った絵画など、 半分にするのが難しいものがあった。なんとか新しい生活を始めよ うとすると...。「ハーフ・アンド・ハーフ」

12作の短編集です。さらりとした文章なのに、気がつくと濃厚な 怖い世界に引きずり込まれていました。今邑さんの独特の世界、です。 初めて読みましたが、仕掛けもしっかり想定してあり、おもしろい と思います。長編も読んでみたいですね。なかなかの力です。

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